DX先進県・広島県の湯崎知事に聞く いま、本当にDXのために必要なもの10月にデータカタログサイトをオープン

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が一種のバズワードとして広がりを見せ、アフターコロナを見据えた競争力維持のために、今やあらゆる業種業界の垣根を超え、避けて通れないものとなっている。いま、DXのために必要なものとは何だろうか。自治体として早くからデジタル活用・DX推進に取り組み、10月にはオープンデータなどを提供する「データカタログサイト」をオープンした広島県の湯崎英彦知事にインタビューした。

» 2020年12月01日 10時00分 公開
[PR/ITmedia]
PR

 広島県は10月、これまで取り組んできたデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する取り組みの成果や、各種実証実験などで得られたデータを公開する「データカタログサイト」をオープンした。コロナ禍を受けて、民間企業だけでなく官公庁・自治体でもDXの機運が高まっているが、中でも広島県はその先頭を走っているといっても過言ではないだろう。

 そこで今回は、広島県の湯崎(※崎は「たつざき」)英彦知事に、広島県のこれまでの取り組みや、DXを進める上で必要なものについて話を聞いた。

上段中央が湯崎英彦広島県知事。取材はZoomにて実施した

技術革新は「ドッグイヤー」 民間での経験を生かし変革を実現

――民間企業だけでなく、自治体などでもデジタルを活用した変革の機運が高まってきているように感じています。これまでの広島県での取り組みや、広島ならではの強みをお聞かせください。

湯崎英彦広島県知事(以下、湯崎知事): 広島県では、多くの自治体に先駆けて「イノベーション立県」というコンセプトを打ち立て、環境作りやIT人材の育成などに取り組んできました。

 もともと、広島県はモノづくりに強みを持っています。世界トップレベルのモノづくり企業が多く集まっており、しかも半導体から鉄まで幅広い産業分布と、グローバル、大企業、中小企業までという層の厚みも特徴です。ところが残念ながら、“デジタルに弱い”という一面があることも事実です。世の中の流れを見ると、産業の付加価値はモノづくりからデジタルに移行しています。自動車が良い例だと思います。昔には考えられなかったことですが、今はソフトウェアが自動車に搭載され、運転の支援、自動運転などに寄与しています。

 こうした中、「このままでは、広島のモノづくりが立ち行かなくなるかもしれない」――という危機感がありました。地域としての競争力を高めるためには、この流れに先んじて行動を起こしていくことが必要です。モノづくりという、われわれが持つ従来の強みが弱みにならないようDXの推進が必須だと考え、2019年に「DX推進本部」を設置しました。

 DX推進本部は、3つのDXに取り組んでいます。一つは「仕事・暮らしのデジタル化」、いわば産業の領域でのDXですね。そして「地域社会のデジタル化」、これはスマートシティ構想に当たります。最後に、「行政そのもののデジタル化」です。

AIを活用して法面の崩落を予測し、事故を未然に防ぐなど、ITを駆使したさまざまな取り組みを行っている

――多くの自治体が、広島県のような取り組みをやろうとしていますが、なかなかうまくいっていないのが実情のように感じています。広島県が比較的スムーズに変革を実現できている裏には、知事の民間企業での経験が生かされているように思えますが。

湯崎知事: ありがとうございます。私は知事になる以前、実業の世界に身を置き、デジタル領域や通信事業に携わっていました。今でいうIoTの実用化を進めていましたし、ビッグデータも扱っていました。そういった経験から、デジタルの力は身をもって実感していますし、生産性向上に寄与することも理解しています。ですから、自治体であっても、こうした領域で思い切ったことをやっていかないと競争に負けてしまう、という認識はありました。

 デジタル領域は「ドッグイヤー」だとよく言われます(犬にとっての1年が、人間にとっての7年くらいに相当することから、技術革新の速さを表す言葉)。広島のモノづくりは世界的な競争にさらされているので、いち早くデジタルを味方に付けながら変わっていかなければならない。そういった課題感を私が持てているのも、やはり民間経験の中で醸成された視点によるところは大きいかもしれません。

失敗してもいい! アジャイル思考が売りの「ひろしまサンドボックス」

――18年5月から行っている「ひろしまサンドボックス」について、概要をお聞かせください。

 簡単に説明すると、とにかく何でもいいから面白いことしよう、デジタルで課題解決しようというのがコンセプトです。そのアイデアを形にするために、広島県をフィールドとして自由に実証できる仕組みがひろしまサンドボックスです。必ずしも成功や成果を求めるものではなく、あくまでチャレンジする場として提供し、失敗してもいいというメッセージを発信しており、すでにAIやIoTを活用したアイデアも多く集まってきています。

「失敗してもいい」が売りのプロジェクト

 ひろしまサンドボックスが目指しているのは、取り組みを通じて技術やノウハウ、県内外のデジタル系企業、人材を広島に集積させることです。どうやったら、デジタル企業や人材から、この広島に目を向けていただけるのか。あわよくば広島県に来てもらって、広島の企業に刺激を与えてもらえるのか。IT系人材や企業を引きつける、何かウケることをやらないといけないと考えた結果、一つのバズワードとして「アジャイル」という言葉に行きつきました。この“何でも自由にできる”“間違ったら直せばいい”というアジャイル思想がひろしまサンドボックスのベースにあります。

 予算も3年間で10億円と、自治体としては比較的大規模な投資をしています。お金だけでなく、さまざまなプラットフォームもご活用いただけるのも強みです。例えば、データセンターや5G通信などの基盤を持つ企業にもサポーターとして参加いただき、そのリソースを実証実験に使えるよう開放してもらいました。

――非常にインパクトのある取り組みですが、現在どのような成果が生まれているのでしょうか。また、あらためて見つかっている課題などはありますか。

湯崎知事: AIを使った牡蠣の生育や、レモンの栽培でIoTを活用して最適化しようというプロジェクトは、すでに実装のめどが立っています。もともと、牡蠣やレモン栽培といった一次産業はデジタル領域から遠い傾向にありました。しかし、こうした領域の各プレイヤーが参画してくださり、デジタルでチャレンジしようという機運が高まってきているのは、一つの成果だと思います。

 一方で課題となっているのはデータです。DXを進める上ではデータとAIが大きなカギを握っていますが、分野を越えて交換していく仕組みがまだ十分とはいえません。特にデータは、新しいデジタル社会の「石油」ともいわれています。これからDXを推し進めていくためには、どんなデータが使えるのか、そしてビジネスの中でどんなデータを得ることができるのかを考える必要があります。

 ビジネスとデジタル時代を巡るデータとしては、海外の巨大IT企業を巡って個人情報が注目されることも多いですが、重要なデータは決してそれだけではありません。さまざまな取引データ、街中での人の流れや交通データなど、使えるデータは数多くあります。何に着目して、どう使っていくのかを考えることで、新しい時代のサービスを生み出すことができると思います。

 その中で、ひろしまサンドボックスの一環として、先ごろ「データカタログサイト」を公開しました。

データはデジタル時代の石油、DXにも必要不可欠

――データカタログサイトには、どのようなデータが格納されていて、どのように活用できるのでしょうか。

湯崎知事: 農業、水産業、観光、交通、製造業など広範な産業に関するデータを格納しています。オープンソースのデータポータルサイト、プラットフォームとなっており、ここで企業やデータの所有者が共有できるシェアードデータの情報を公開するだけでなく、要望に応じて、データの利用者とデータ提供者の情報のマッチングを行うという機能も搭載しています。

データカタログサイトの利用イメージ

 現在は、ひろしまサンドボックスの実証実験で得られたデータ、メタデータが公開されていますが、将来的にはもっと幅広いステークホルダーの方にご利用いただき、ここで新たなマッチングが生まれ、データ流通や再活用を促進していきたいと考えています。

 まずは場を作り、たくさんのプレイヤーが参画できる状態にするのが重要です。さらにそれを活用するための人材育成も必要ですね。現在、高校生や高専生などデジタルネイティブな人たちをターゲットにしてデータ再活用人材育成研修を開催しています。また「ひろしまQuest」という、AIを使って実践的な課題を解決していく演習の場を設けるなどユニークな取り組みを推進し、未来のテクノロジー人材の育成にも注力しています。

県内と外部を融合し、人材活用を進めていく

――新型コロナ対応を巡っては、行政のIT活用がうまくいかなかった面も大きいように感じています。広島県でのコロナ対応や、今回明らかになった行政や自治体におけるIT活用の課題点についてはどのようにお考えでしょうか。

湯崎知事: 特別定額給付金について、県内の自治体が相当苦労したという実感がありますが、その中で、やはり手続きなどのオンライン化やDXを進めていく人材のリソース不足が非常に大きな課題だと痛感しました。

 現在、県庁の中ではRPAを導入したり、AIも活用したりしています。例えば、AIを活用した移住相談システムを導入しました。これにより、窓口で人が対応していた業務の省力化を実現できており、もともとは1日に8件程度の対応が限界だったのが、AIなら24時間対応可能となっています。このように生産性を上げていくことで、DXに取り組める人材を切り出していくことが必要だと思っています。庁内の効率化に加えて、DX推進を統括できる人材を民間から来ていただいておりますし、内部と外部を融合しながら、デジタル時代の人材活用を進めていければと思います。

――DXの取り組み以外にも、広島県では企業移転の支援をなさっているかと存じます。こちらのプロジェクトの反響と、最近話題のワーケーション誘致について、広島県の取り組みをお聞かせください。

湯崎知事: 企業移転やワーケーションは、やはり新型コロナの影響で非常に関心が高まっています。以前ならオフィス移転のご相談は月に2、3件くらいでしたが、5月中旬くらいからは急増している印象です。それに合わせて、オフィス誘致に関する新しい取り組みとして、助成制度を開始しました。

ALT 文字列 幅広い移転・移住支援プログラムを提供している(クリックで広島県サイトへ移動します)

 これまで、IT系の企業に対して、最大1億円の助成を行っていましたが、これを2021年の2月まで期間限定で、倍の2億円にしました。さらに、経営者や従業員だけでなく、家族の方に関する助成制度も用意しています。完全移転ではなく、お試し移転に対しても支援させていただきますので、ワーケーションとしてもお使いいただけると思っています。

――最後に、今後のDX戦略に関するビジョンなどお聞かせください。

湯崎知事: 今、DXが非常に注目を集めていますが、本質的には、産業の発展や個人がいかに幸せに暮らしていくことができるかという点が重視されるべきだと思います。その中でわれわれとしては、まずは、広島発のDXを成功に導き全国の自治体にとってのモデルケースとなれればうれしいですね。

 今は、デジタル社会への移行へ力を入れていますが、そこで終わるのではなく、次の時代を見据え、先回りして予測をして地域の社会経済、必要なものをサービスとして提供したり、変革を促したりしていこうと思います。ますます不透明な時代に突入していくことが予想されますから、オープンに、アジャイルに進めながらチャレンジを続けたいと思っています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:広島県
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2020年12月16日