“電子コミックの父”BookLive淡野社長が語る、「紙書籍と電子書籍」のこれまでとこれから紙はなくなるのか、電子とどう共存するのか

2021年に創業10周年を迎えたBookLive。社長の淡野正氏は、同社を立ち上げる以前から電子書籍に携わり、中でもマンガの電子化に尽力してきた「電子コミックの父」とも呼べる存在だ。本記事では淡野社長に、電子書籍業界のこれまでとこれからや、BookLiveの歴史について話を聞く。

» 2021年02月15日 10時00分 公開
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 小説や写真集、雑誌、実用書からマンガまで、多くの電子書籍を配信するストア「ブックライブ」を運営するBookLiveは、2021年に10周年を迎えた。

 社長の淡野正氏は、同社を立ち上げる以前、ガラケーの時代から電子書籍に携わり、中でもマンガの電子化に尽力してきた。淡野氏のキャリアとBookLiveのこれまでを振り返るとともに、紙書籍と匹敵するほどの存在感を持つまでに至った電子書籍のこれまでとこれからについて、話を聞いた。

「紙」をメインに扱う印刷会社時代に、電子書籍に注目したワケ

――淡野社長は、かつて凸版印刷にお勤めだったと聞いています。紙などの印刷を事業とする企業の中で、電子書籍に取り組み始めたきっかけは何だったのでしょうか。

淡野正社長(以下、淡野社長): 凸版印刷の中で、さまざまな事業を経験しましたが、最後にたどり着いたのがEビジネス事業部という部署でした。いわゆる企画部隊で、新しいEビジネスを創出する部署です。

 その頃、印刷物になる情報はすでにDTPによりデジタル化されるようになっていました。デザイナーやクリエイターがイメージした世界を現場の製販を経ずに、デスクトップ上でそのまま再現できるようになり、イメージの具現化のスピードや工程の効率が一気にアップしたのです。

 そこで私は「印刷する前のコンテンツをデジタルコンテンツとして、そのまま配信したらどうなるだろうか」という考えを持つようになりました。インターネットポータルサイトへのコンテンツ提供は既に社内でも行われていたのですが、凸版印刷がこれまで手掛けていたBtoBビジネスではなく、新たな潮流を作るには、直接コンシューマーに働きかけた方がいいだろうと考えたわけです。

――紙がメインの中でデジタルへシフトするという点から、社内にも抵抗勢力があったのではないでしょうか。

淡野社長: このビジネスを推進するに当たり、出版物を扱う部門の現場からの抵抗はありました。クライアントである出版社のコンテンツを加工するのではなく、自ら読者へ配信するビジネスモデルが想像しにくかったのだと思います。

 一方で経営層は「もうそういう時代ではない。新しいことをやっていかなければならない」という意見を持っていたので、チャレンジをさせていただくことができました。

当時は「紙芝居」 携帯キャリア各社とともに電子コミック普及に尽力

――その中で、電子コミックに注力していくことになります。当時はまだ今ほど市場が大きくない中で、なぜ電子コミックへ注目されたのでしょうか。

淡野社長: 当時、PDAというモバイル端末上でコンテンツを提供するプロジェクトがありました。残念ながら日本ではPDA自体があまり普及せず、大きなムーブメントになりませんでしたが、その中でもマンガはかなり売れました。

 当時は容量と画面の問題から、作品をコマごとにカットして、紙芝居のように見せていました。「これはマンガの形をした、一種のモバイルコンテンツだ。だからウケたのだろう」というのが当時の感想です。つまり小説よりもマンガの方が、モバイルとコンテンツとの親和性が高かったということです。

 PDAこそ普及しませんでしたが、当時はガラケーが普及していく真っ只中で、携帯電話で扱うコンテンツマーケットも拡大していました。「これを携帯電話でやれば、より多くの人へコンテンツを届けられる」という考えが生まれるのも必然でした。ところが、当時の携帯はパケット代が従量制で、画像データであるマンガを配信するのは非常に厳しかったのです。

 そんな中、キャリア各社がパケットの定額サービスを始めるようになり、音楽や電子書籍、ゲームなど、それまでよりも容量の大きなコンテンツで勝負をかけるようになってきました。そこでわれわれに、キャリアから電子書籍プロジェクトの話がきたのですが、先ほどお話した理由から、移動中に携帯で読むのならば、マンガの方が適しているだろうと考え、マンガへ注力していきました。

逆転の発想で出版社とタッグ 次々に新ビジネスを展開

――その後、05年に設立されたビットウェイでは、淡野社長は常務を務めていらっしゃいました。同社では、どういった事業を展開されていたのでしょうか。

淡野社長: 凸版印刷の中にあった、デジタルコンテンツを流通させるビジネスが「ビットウェイ」という名称でした。当時は携帯電話で配信するコンテンツ市場が伸びていたので、経営スピードを高めてより成長させた方がいいだろうということで、部署ごと分社化しました。

 そこではデジタルコンテンツを普及させるために、キャリアの公式サイトとして自社ストアを作り配信をしていたのですが、出版社などからコンテンツを提供していただくことに難航しました。

 そこで、あるアイデアが生まれました。当時、出版社のデジタル化が進んでいて、各社はデータをCDなどの記録メディアで保管していました。一方で、扱うデータが膨大なことから保管場所の問題が生じていました。そこで、データを預かって、必要なときに取り出せるという「デジタルコンテンツバンク」の提供を開始しました。保管料はいただくのですが、ビットウェイのストアで配信させてくれたら不要とすることで、コンテンツ提供を促すような企画にしていました。

 そうこうしているうちにさまざまな企業がケータイコミック配信サービスに新規参入してきたため、配信だけでなくコンテンツの取次事業も始めました。当時、配信用のコマ加工を自社で行い、出版社に校正をお願いしており、場合によっては出版社が作家さんに確認するという流れになっていましたが、これを配信する会社ごとに行うのは非効率的ですよね。そこで、出版社から他のサイトにもコンテンツを取り次いでもらえないかと要望を受けたのです。

 これには社内で賛否両論がありました。「敵に塩を送ってどうするのか」や「われわれがやる意味はあるのか」といった反論もありました。しかし、私はやるべきだと思いました。

――お話を伺っていると、淡野社長は「ベンチャー気質」をお持ちのように感じます。

淡野社長: 根が「何でも屋」なのかもしれません。凸版印刷には数多くの企画職がありましたが、私が担当していたのはデザイン的なクリエイティブではなく、もっと泥臭い感じの企画がほとんどでした。前例のないものを作ることも結構あり、そうしたときには社内外を駆け回り、具現化しなければなりません。きっちりとした体制も整っていなかったので、自分だけで対応することも多く、その経験が糧になっていると思います。

BookLive創業10周年の歴史

――その後、11年にBookLiveを起業されるわけですが、その経緯を教えてください。

淡野社長: 電子取次事業は成長していきましたが、競合ストアの中には、われわれからコンテンツを取り次ぐことを警戒するストアもありました。ガラケーで事業を始めたころは、配信ストアだけでなく、競合ストアへの電子取次やビューア提供もしていたので、ストア事業に専念すべきと考えるようになりました。

 取次事業も成長すると思いますが、デジタルであるがゆえに場所の制約がありません。コンテンツを配信する企業の数も将来的には減っていくことが予想されますし、そうなると、直接やりとりをすればよくなり、長い目で見れば「取次の存在意義とは何なのか」という話になってきますよね。また、スマートフォンが登場して画面サイズも大きくなってくると、コマ加工する作業も不要になってくるという流れの中で、BtoCビジネスに主力をおくべきだろうと考えたのです。

 BookLiveを創業する背景には、ちょうど欧米で電子書籍事業に成功したアマゾンなどの企業が日本市場に参入するというタイミングで、そこに対して日本勢としてしっかり投資をして備えたほうが良いだろうという考えもありました。

 その投資の一環として、当社ではメイドインジャパンの電子書籍専用端末「BookLive!Reader Lideo(通称:リディオ)」を12年12月に発売しました。幅広い年齢の方に電子書籍を楽しんでいただこうと、シニアの方でも使いやすいUIにこだわり、また端末を購入すれば電子書籍のダウンロードなどの通信費も不要で使える点が大きな特徴でした。しかし電子書籍専用端末は日本では想定より受け入れられませんでした。

 リディオは専用端末ということで、より紙に近いキンドル端末と同じ電子ペーパーがディスプレイとして採用されていましたが、ガラケーやスマホの進化も早く、スマホやタブレットとの2台持ち、3台持ちには抵抗感がある人も多かったようです。こうした背景から、後継機の発売に至らないまま20年にサービスを終了したことも事実です。日本では小説などの書籍的なジャンルよりも、マンガが人気な傾向にあります。若者層での市場も大きく伸長しており、現在は若年層に向けて、マンガ閲覧をメインとした開発やプロモーションを積極的に行っています。

――21年1月には、創業10年周年を迎えられましたね。

淡野社長: 常にゼロからの出発でしたが、当社が運営する総合電子書籍ストア「ブックライブ」も2月17日で10周年を迎えます。この10年間で配信冊数は累計100万冊を超えるまでに至りました。これはひとえに、ストアを利用してくださっているユーザーの皆さんはもちろんのこと、作家や出版社の皆さん、そして魅力的なキャラクターたちがいてこそ迎えられた10周年だと思っています。

配信冊数が累計100万冊を超えた総合電子書籍ストア「ブックライブ」

 今回、未来への希望や勇気、日々の糧をもたらしてくれるマンガのキャラクターたちにも感謝を伝えたいと考えまして、感謝メッセージを新宿・渋谷・池袋駅の巨大広告で掲出する取り組みを2月15〜21日の1週間限定で実施します。広告には、私と、“顔の見える書店員”としてストア運営を行っているブックライブ書店員のすず木とえい子、ほか5人の社員たちからキャラクターへの手書きメッセージを寄せました。メッセージのほか、キャラクターたちの魅力的な表情や名シーンを巨大なコマで一挙に楽しめる広告になったと思います。緊急事態宣言下での公開となってしまったため、現地で見ていただく機会は残念ながら少ないかもしれませんが、ブックライブストア内でも公開していますのでぜひご覧いただき、当社のマンガキャラクターたちに寄せる想いとともに、皆さんと10周年をお祝いできたら光栄です。

【関連リンク】10周年記念 総合ページ(ブックライブストア)

【関連リンク】感謝の手紙 特設ページ(ブックライブストア)

1週間限定で、マンガキャラクターへの感謝メッセージを交通広告で掲出する

「紙がなくなることはない」――紙と電子を巡る変化

――10周年を迎えるに当たり、お感じになっている業界の変化はありますか。

淡野社長: 初期の電子書籍というものは、あくまで紙を電子化したもので、紙書籍の補完的な立ち位置でした。しかし今では、紙と電子は同等のものになっています。

 例えば、必ずしも紙の書籍を電子化する、というのではなく、電子書籍が先に作られ、ヒットしたら紙書籍が発売されるケースも増えています。また、クリエイターが自ら発信する手段が増えたことで、売り物として流通していなくても、作品をダイレクトに見せる機会が増えるなど、ビジネスの流れが大きく変わっていますよね。

――紙書籍と電子書籍のパワーバランスも変わってきているのでしょうか。

淡野社長: 電子書籍を語る際、よく「紙か電子か」という議論が起こっていますが、実は私にとってはあまり興味のない話です。

 もちろん、紙がなくなることはないと思っていますし、個人的には紙が好きです。

 作家さんの中にも、自分の作品を紙で残したいという方は多いことでしょう。自分の作品が紙で残れば周りに配れますが、電子では「見ておいて」としか言えません。従って、コンテンツが紙で提供されることの価値は、残っていくと思います。しかしマーケットにおけるインパクトは、今後は電子の方が強くなっていくと考えます。

作り手と読み手をつなぎつつ、全員が喜べるものを創造していく

――さらに市場が拡大していくことが予想される中で、BookLiveとしてはどのような役割を担っていくビジョンをお持ちでしょうか。

淡野社長: 当社を設立した11年、東日本大震災が発生し、世の中の風潮として「エンターテインメントコンテンツを見ている場合ではない」となりました。被災地ではインフラの復旧が大切ですし、生きるか死ぬかという状況の中で果たして、このビジネスを始めてよかったのかどうか、自問自答を繰り返していました。

 ところが、だんだん被災地の復旧が進んでくると人間は他の生き物と違い、生きる糧として「人から学びたい」「感動したい」という思いが湧いてきます。本やマンガは、そういった状況下で力を発揮するものだと実感しました。

 当社としては、ブックライブという電子書籍配信事業を通じて、読者と作品の出会いの間口を広げることはもちろんですが、より大きな視座で作り手と読み手をつなぐ役割を担っていきたいと考えています。

 そうした取り組みの一つとして、個人作家向けの電子書籍化・配信を支援する取り組みを17年から行っています。書店に行けば目にとまる機会の多い商業誌に比べ、個人誌は特定の場所やストアに出向かないと出会う機会がありません。個人誌は作家が1人で制作から事務作業まで行っている場合も多く、商業誌のように発信し続けることが難しいのも事実です。

 加えて、20年はコロナの影響で多くの同人即売会が中止になり、読者と出会う重要な機会が減ってしまいました。そこで、昨年から作家個別の電子レーベル立ち上げや配信管理のサポートなど、支援の幅を拡大しました。商業誌でも個人誌でも、作り手の届けたい想いの熱量は変わらないはずです。多くのクリエイターを応援するために、より多くの作品を世の中に送り出し、読者側も区分を超えて作品を選び、楽しめる場を作っていきたいと考えています。

 また、出版社との関係も以前とは変わってきています。一緒に業界を盛り上げるパートナーなので、単に本やマンガといったコンテンツを預かって配信するだけではなく、当社で持っているマーケット情報を基に、売れやすいトレンドのテーマや販売方法をタイムリーに提供することや、具体的な作品の販促方法の企画も踏まえた上で「こういうものを一緒に作りませんか」というような提案も行っています。

 私たちが掲げている企業理念は「新しい価値を創造することで、楽しいをかたちにする」です。まさにこの言葉を体現する形で、創造し続けて新しい価値を作っていきます。

 最終的には、作り手も読み手も全員が喜べるものを提供できるようなビジネスモデルを創造するということが、大きな意味での理想形ですね。

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提供:株式会社BookLive
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2021年2月26日

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