間接部門からデータドリブンの拠点へ 企業と営業組織を強くする「オペレーション」の可能性「営業サポート」も今は昔

DX推進と顧客満足度向上という2つの課題へ対応するための注目キーワード「オペレーション」とは一体何か? かつて「営業のサポート」と目されることも多かった同領域が今、注目を集めている。そこで本記事では、HubSpot Japanが開催したイベント「Ops Day 2021」内のパネルディスカッションを通し、「可能性の宝庫」ともいえるオペレーションの実態や今後の展望について解説する。

» 2021年11月11日 10時00分 公開
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 コロナ禍で喫緊の課題へと躍り出た「DX推進」と「顧客満足度向上」。この2つの課題を解決するためには、ツールや組織、業務の分散/分断といった状況を乗り越えることが必要不可欠だ。そのために注目が集まるキーワードが「オペレーション」だが、実は日本の先を行く欧米でも、まだ正確な役割や定義が定まっているわけではない。それがゆえに「可能性の宝庫」ともいえる領域だが、実態はどうなっているのだろうか。

 そこで本記事では、HubSpot Japanが主催したイベント「Ops Day 2021」から、オペレーション改革を実践する企業が登壇して語り合ったパネルディスカッション「現場の生の声から考える、『オペレーション』の意義とこれから」を通じて、あらためてその実態を確認しながら解説していく。

 なお、同イベントでは、オペレーションに関する基礎的な知識や、オペレーションを基に営業組織改革を実現し、リード獲得数や商談数を増加させた事例についても紹介している。こちらについては、別記事「効率化と顧客満足度向上を一挙に実現 今注目のキーワード『オペレーション』とは?」でまとめているので、ぜひ参照されたい。

オペレーションは「マーケティングの宝庫」

 パネリストは、ユーザベースの岡崎佑子氏(Sales Operations Team Leader)、SmartHRの工藤慧亮氏(セールスグループ セールスプランニングユニット)、明光ネットワークジャパンの谷口康忠氏(執行役員 DX戦略本部長)、モデレーターはHubSpot Japanの土井早春氏が務めた。

 パネルディスカッション冒頭ではまず、各社が考えるオペレーションの定義と意義について、参加者が語り合った。

明光ネットワークジャパンの谷口康忠氏

 明光ネットワークジャパンの谷口氏はオペレーション領域について「マーケティングデータの宝庫」と表現する。その理由について「オペレーションはマーケティングと同様に、申し込みから課金請求など、契約後のさまざまなプロセスで発生します。そうしたプロセスの運用、サポートを通じてお客さまのニーズが見出され、データとして蓄積されるのです」と説明した。

 同社が事業展開する学習塾業界では、入塾前は保護者のデータに基づき、保護者にフォーカスしたマーケティングが必要だが、いざ入塾後は生徒にも向き合わなければならない難しさがあるのだという。「入塾すればそれで終わりではなく、その後は生徒のデータをいかに学習力向上に生かすかが重要」と指摘した上で「保護者の満足度を高めるために、生徒の成績情報や学習の進ちょく状況を、保護者に伝えるコミュニケーションの仕組みをつくるなど、それぞれのデータをシームレスにつなぐオペレーションが求められています」と谷口氏は話す。

組織の連携を促すのもオペレーションの役割 「投資」と割り切るのも重要

 SmartHRの工藤氏は、同社におけるオペレーションの意義について「セールスに関わるさまざまな問題に対して、セールスオペレーションに該当するチームが各部署やマネジャーと連携し、役割分担をしながら意思決定の高速化と最大化を狙っていくこと」と定義する。そして、分断されがちな各部門をつなぐ役割を、オペレーション専任部隊が担うべきだとも提言する。「営業戦略を現場に則した形で立案する、あるいは面接から採用、育成というプロセスをセールスと人事が一緒になって進めるようにするなど、セールスオペレーションが連携を促すことでお客さまに真の価値を届けることができるはずです」(工藤氏)

 オペレーション部門がまさに営業部門の「頭脳」として、業務の優先順位やタイミングに合わせて業務の棚卸しをすべきだという工藤氏の発言に対して、モデレーターの土井氏からは、「多くの企業では、いわゆるセールスオペレーション的な業務を専任ではなく、兼任で担当していることも多いと思います。セールスオペレーション専門の担当者、あるいは部署をつくるべきタイミングはいつごろなのでしょうか」という質問が出た。

SmartHRの工藤慧亮氏

 この質問に対して、工藤氏は「個人的には、営業人員が15人ほどの規模になってからだと思っています」と回答。一般的なケースでは、30〜40人規模の組織まで成長してからオペレーション部門を立ち上げることも多いというが、そこまで人員が増えてしまうと、営業系統をあらためて整えることや、ツールのスムーズな定着が難しくなってしまう。「まだ人数の少ないうちから、認識をすり合わせながらゆっくりとスタートできると、組織フェーズの拡大や人数の増加にも耐えられると考えています」と工藤氏は説明する。

 とはいえ、オペレーション部門は「間接部門」と目されることも多く、利益を直接生み出さない部署であることから、早期の立ち上げに踏み切れない企業も少なくない。この点については、あくまで「投資」と考え、中長期的な売り上げ向上を目的とするべきだと工藤氏はコメントした。

オペレーション起点でガバナンスの整備も

 ユーザベースの岡崎氏は、オペレーションの役割について、社内全体の効率化を促し、生産性を向上させる環境づくりも担えると提言する。「セールスならセールス、カスタマーサクセスならカスタマーサクセス、つまりお客さまを獲得したり成功に導いたりという、本来やるべき仕事や得意な仕事に注力した方が、圧倒的に成果は出しやすいはずですし、何より楽しいですよね」(岡崎氏)。

 それぞれが本来当たるべき業務に当たることで、ガバナンスや健全性といった、これから企業が求められるポイントについても良い効果をもたらすと岡崎氏は述べる。データを提供するサプライヤーとの契約を順守できているか、顧客に対して誠実な対応ができているのかという点を会社としてしっかり担保することが、会社が拡大していく上で必要なプロセスだといえる。

ユーザベースの岡崎佑子氏

 「例えば、顧客を獲得するというフローに、必ず契約業務が発生します。この契約業務そのものは、営業担当にとってそこまで重要なアクションではないのに、時間を奪ってしまう。それをオペレーション部門が担当することで、ガバナンスを利かせられますし、企業としての信頼性や健全性を維持しながら生産性を上げられます。そういった意味でもオペレーションにはとても意義があると考えています」(岡崎氏)

 ユーザベースでは、オペレーション部門と営業部門の組織系統自体を分けており、それによって、健全な契約も担保されている。それぞれが同じ組織の中にあると忖度が生まれる可能性もあるが、明確に分けることによって、それぞれにやるべき仕事が適正に遂行されやすくなるという。

 ここまでの3社の話を受けると、オペレーション領域を「間接部門」と捉えるのではなく、「データの宝庫」または「中長期的な施策を考える指令室」あるいは「ガバナンスの整備拠点」といった専門領域だと捉え、しっかりと投資することの重要性が理解できる。

オペレーション部門、「名前」の意外な重要性

 オペレーションの定義に引き続き、議題は「オペレーション関連業務から得た知見」へと移る。

 ユーザベースの岡崎氏は、自社の経験を基に組織名称の重要性について指摘する。

 ユーザベースでは、当初オペレーション部門を「セールスサポートエンカレッジメント」という名称でスタートさせていたが、「サポート」という単語が含まれていることにより「チームメンバー自身が“自分たちは営業のサポートなんだ”と思い込んでしまって業務に誇りを持てていない状況だった」(岡崎氏)という。

 もちろん、オペレーション部門が担当する個々の業務を見れば営業のアシスタントをすることもある。しかし、ここまで各氏が話してきた通り、オペレーション部門の役割はそれにとどまらない。そこで、オペレーションを確実に担っていくという姿勢を示し、メンバーで意識共有するために、「セールスオペレーション」という名称へ変更したところ、「チームメンバーの仕事に対する姿勢が大きく変わり、『自分たちがオペレーションの定義をつくってやる!』という意識が芽生え始めました」と岡崎氏はうれしそうに話す。

 ユーザベースと同様に、SmartHRもオペレーション領域において、直近で組織変更を行った。

 SmartHRでは、当初「セールスOpsチーム」としてオペレーション部門を発足し、メイン業務としてCRMの構築を担当していた。しかし、その点に関する理解だけが独り歩きしてしまい、「ツールの便利屋さん」のように見られてしまっていたという。「営業と一緒にタッグを組んでアクションを起こすのではなく、あくまで便利屋さんとして『お願い』するだけのチームとして思われており、この点を何とかして変えたいと考えていました」と工藤氏は振り返る。その背景には、まだオペレーションの定義が定まっていないという理由もあった。

 そこで、「セールスプランニング」という名称にリニューアルし、ツール導入やオペレーション業務はもちろん、イネーブルメントも行う組織だということを積極的に発信するようにした。直近ではデータ分析と戦略立案にも着手する一方、ツールや業務効率化といったオペレーション部分を「全社Opsグループ」という別組織に移管し、セールスプランニングチームでは営業力の強化や施策の企画・実行などにより注力できる組織体制にシフトしているという。

ヒンサイト・インサイトから「フォーサイト」を導き出す時代へ

HubSpot Japanの土井早春氏

 SmartHRの取り組みについて土井氏は「もともとのオペレーション機能をさらに整理し、ツール設定のようなテクノロジーの管理をする部署と、戦略立案やプランニングをする部署を分けることで、今の組織の状況に最適化した好例ですね」とコメントした上で「ヒンサイト」「インサイト」「フォーサイト」という3つのキーワードを紹介した。

 土井氏によると、これまでのオペレーション部門は、過去のデータなど(ヒンサイト)を分析して、現状の分析(インサイト)に終始していた。一方、今後はヒンサイトやインサイトといった情報から、未来の視座(フォーサイト)を導き出し、企業がとるべき指針を示すことこそ、オペレーション部門の役割であるといい、SmartHRの取り組みをはじめとして、こうした動きが広がっていくことに期待を寄せた。

オペレーション軽視が「リスク」に?

 オペレーション部門がフォーサイトを導き出す部門へとアップデートしていくにはどうすればよいのだろうか。明光ネットワークジャパンの谷口氏は、乗り越えるべき壁として「オペレーションの分断」を挙げる。シームレスにデータが引き継がれて、一気通貫で全社オペレーションが行える状況が理想的な姿であり、そのためには点在/サイロ化したデータや業務を、デジタルを活用しながらオペレーションファーストで再設計すべきだという指摘だ。

 「オペレーションは、『頑張って整備していけばいいじゃないか』くらいの熱量で、軽視されがちです。しかし、オペレーションに関する分析をしてみると、国内や海外の『強い』企業はサービスの設計がオペレーションファーストになっているところが多いと分かります。

 例えば、あるネットワークを手掛ける企業は、申し込みから保守サポートまで、本当に簡単にできるようなサービス設計になっているわけです。そうなると、カスタマーエクスペリエンスだけでなくリードタイムが短縮できて、業務効率化にもつながりますよね。逆に、オペレーションが不快であれば、レピュテーションリスクにも直結します。まさに今本気でオペレーション改革に取り組んでいくべきタイミングといえるのではないでしょうか」(谷口氏)

 これに対して土井氏も「社内でデータやプロセスが分断・分散されている状態は、社内だけでなく顧客に対してもリスクといえ、ブランドき損にもつながりかねません」と同意を表す。その上で、オペレーションが軽視されがちな中、製品やサービスのクオリティーが高くて当たり前というこれからの時代において、同部門は後方支援にとどまらず、顧客体験のカギを握る存在になっていくべきだという見解を示した。

先進企業が語る、オペレーションの今後

 セッションの末尾では、パネリストが今後のオペレーションに関する展望をそれぞれ語った。

 明光ネットワークジャパンの谷口氏は「オペレーションはデータの宝庫である」という冒頭で示した定義を再度提示し、こうしたデータを活用できるかが企業の生命線であり、インサイト・フォーサイトをオペレーション部門起点で照らし出し、DXやイノベーションにつなげていきたいという決意を語った。

 ユーザベースの岡崎氏は、オペレーション業務はステークホルダーが非常に多く、ハレーションも起きやすい領域であるため負荷は高いとした上で、「オペレーションは生産性を向上させる可能性の宝庫」と表現し、多くの企業で注目が広がっていくことに期待を示した。

 最後に、SmartHRの工藤氏は、セールスオペレーションの専門部署がまだ少ないという現状を指摘した上で、「本来、営業マネジャーがやりたいことを実現できているか、施策の効果をもっと最大化できないか、という観点で見ると、何が必要か分かってくるはずです。今日の話を機会に、オペレーションに取り組む人が増えてくるとうれしいですね」とコメント。すでにオペレーションに取り組んでいる企業に対しては、該当の営業部署だけでなく、影響力のある管理者と合意を取るなど現場に寄り添い伴走することで、成果につながってくるとアドバイスした。

オペレーションは「可能性の宝庫」である

 ここまで、本記事ではオペレーションに積極的に取り組む先進企業のパネルディスカッションを通し、オペレーションの重要性や可能性を解説してきた。

 コロナ禍により加速した、DXの機運や顧客接点の増大。そして、いまだ大きな課題として存在するツールや組織の点在/分断。まだ正確な役割や定義こそ定まっていないが、だからこそ「可能性の宝庫」ともいえるオペレーションが、こうした状況を乗り越えるカギであるといえる。

 営業やマーケティングといった部署だけでなく、組織内のさまざまな連携を生み出し、変化に対応できるフォーサイトを導き出すオペレーション部門の存在が、今後の日本企業を左右しそうだ。

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