「東京ゲームショウのVR化」に見る、顧客体験の未来 電通グループが挑むメタバースビジネスの可能性とは創り出すDX データで築く、新しい未来

DX支援を注力領域の一つとして掲げる電通グループ。「創り出すDX データで築く、新しい未来」と題し、最新テクノロジーを活用する現場の取り組みを紹介する。今回は注目度が高まっている「メタバース」を活用したビジネスの現在地と可能性について聞いた。

» 2022年11月24日 10時00分 公開
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 顧客とどのようにコミュニケーションを図り、豊かな体験を提供していくか。多くの企業にとって、それは常に意識する課題だが、今、デジタル技術の発達によってその在り方は大きく変化している。顧客接点についてリアルかオンラインかという選択をするのではなく、さまざまな技術を活用した多層的なコミュニケーションが実現しつつある。

 そして今、飛躍的な進歩を遂げているのが、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術を活用したメタバース(仮想空間)の技術だ。ゲームなど、エンターテインメントコンテンツではすでに広く活用されているが、イベントなどのマーケティング施策やバーチャルオフィスなど、ビジネス分野にも用途が広がっている。

 メタバースを活用したサービス開発を進める電通グループでは、メタバース事業を手掛けるスタートアップのambr(アンバー)に出資し、同社と連携して新事業開拓に取り組んでいる。メタバース事業を担当する、電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ チーフ・ディレクターの小山祐樹氏と、ambr代表取締役CEOの西村拓也氏に、メタバースビジネスの展望について聞いた。

東京ゲームショウ (左から)ambr代表取締役CEOの西村拓也氏、電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ チーフ・ディレクターの小山祐樹氏

東京ゲームショウをVR化――連携の出発点

 世界3大ゲームショウとして初めて“バーチャル会場”が設置された「TOKYO GAME SHOW 2021」。ゲームショウをVR化した「TOKYO GAME SHOW VR 2021」が、電通グループとambrの取り組みの出発点だった。

 東京ゲームショウにVRを活用できないか――。そんな構想を抱いた小山氏が、技術を持つambrの西村氏に声をかけたところから協業は始まった。この協業をきっかけに、電通グループはambrと資本業務提携し、22年7月には追加出資。電通グループの「クリエイティビティ」や「エグゼキューション力」、ambrの「ユーザー体験設計」や「アジャイル開発力」といった両社の得意分野を生かしながら、共に事業開発に取り組む。

 提携のきっかけとなった東京ゲームショウは、コロナ禍の影響を受けた20年はオンライン開催だった。オンラインでのイベント開催は効率的で、多くの人がリモートで気軽に参加してもらえたが、少し“物足りなさ”があったのも事実だ。「21年は、オンラインの良さにリアル会場が持っていたワクワク感やセレンディピティをさらに進化させるような取り組みができないか、と考えました。そこで、VRを活用するバーチャル会場のプロジェクトを始動しました」と小山氏は振り返る。

 一方、メタバースクリエイティブスタジオ事業を手掛け、18年の創業からVRに特化した技術開発に取り組んできたambrでも、コロナ禍をきっかけに、企業からの引き合いが増えていた。西村氏は「オンラインイベントなどが広まったことで、『Webサイトや動画だけでは表現しきれない価値を顧客に届けたい』というニーズが一気に拡大しました。その中でも、東京ゲームショウのVR化は非常に魅力的なプロジェクトでした」と話す。

 また、小山氏は「ambrは特にリアルなものをVRにするだけではなく、コンテンツやキャラクターに対するリスペクトと共にその世界観をVRの中でどれだけ最大化させて楽しむことができるか、正にユーザー体験を第一に考えていました。東京ゲームショウなどの大型イベントはそれ自体がエンターテインメントなので一緒に取り組みたいと思いました」とambrの選定理由を明かす。

東京ゲームショウ 22年9月に開催した「TOKYO GAME SHOW VR 2022」

会場をダンジョン化、ブランド価値も“体験”で提供

 東京ゲームショウは一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が主催し、電通が共催者として携わる。バーチャル会場設置にあたって、電通では、企画、販売、実装といった段階を踏みながら、前例のない世界に通じるイベントを日本から作り上げたいという強い思いがあった。ambr側でも、出展企業のブースの作り込み、ゲームやキャラクターの再現など、交渉や開発が難しい局面がたくさんあったという。

 「東京ゲームショウの目玉は出展企業のコンテンツです。それをより楽しめる仕掛けをつくることを目指しました。出展企業・協賛企業と一緒にコミュニケーションを取りながら、有名キャラクターが動くシーンや、ゲームの世界をバーチャル空間で再現するなど、来場者に喜んでもらえるコンテンツを提供できました。『あのキャラに会いたい』『このモンスターを召喚したい』など、皆さんが一度は願った夢をかなえることができるのはVRやメタバースの価値であり魅力だと思っています」(西村氏)

 21年に続いて、22年の東京ゲームショウでもバーチャル会場を設置。2回目の開催では、“体験”にさらなる工夫を凝らした。会場の幕張メッセを「ダンジョン」に見立て、巨大地下空間を冒険するゲーム体験を提供。21年を上回る延べ39万人がバーチャル会場に来場した。

東京ゲームショウ 電通グループの小山氏

 「リアル会場の場合、事前に回る小間割りになっている企業ブースを決めて動くことが多いと思います。バーチャル会場は導線設計も自由になるので展示スペースは丸いドーナツ型にして、歩いているうちにほとんど全てのブースを通ることができ、知らなかった企業やコンテンツとの偶発的な出会いもより生み出すことができました。正に、これはセレンディピティの進化だと考えます」と小山氏は話す。ゲーム体験を楽しみながら、出展企業との新たな接点ができる仕掛けだ。

 22年はゲーム関連以外の企業が協賛したことも大きな成果だった。ファッションブランドを展開する企業は、来場者が会場で身に着ける衣装を提供。仮想空間でブランドロゴの入った洋服やスニーカーを着て参加する来場者が目立った。また、飲料品メーカーなどは自社商品を模した帽子や着ぐるみを提供。B2C企業にとっては、多くの若い世代の消費者に自社ブランドに親しんでもらう機会になった。

顧客接点を生かして「これまでにない体験づくり」を

 ゲームショウの取り組みをきっかけに、新たな協業も生まれている。22年2月、トレーディングカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」のアート展をメタバースで開催。漫画家やイラストレーターのカードアートの展示をメインに、アニメーション原画などの資料展示も実施した。

東京ゲームショウ ambrの西村氏

 アート展示自体はリアルでも数多く行われているが、バーチャル空間では「リアルでは味わえない体験」を提供。例えば、カードアートからドラゴンが飛び出してくる仕掛けなど、VR技術を生かした展示を実施した。西村氏は「通常、リアル展示では、人がアートに近づいて鑑賞します。バーチャルなら、アートの方から人に近づいてきて、最も良い形で見られるように展示できます。新しいアート鑑賞の体験です」と説明する。

 現在、さまざまな分野でこのような事例が生まれつつある。今後、メタバースによって提供できる“新しい体験”の幅はどんどん広がっていくだろう。電通グループでは、企業によるメタバース活用の統合的な支援を開始している。事業開発や店舗開発、プロモーションなどの領域で、事業設計やパートナー開拓、データ分析、投資などの統合的支援を行う体制を整えた。

 「事業アセットを蓄積しながらも、将来的な大きな市場創生自体に貢献していくために、まずは、これまでの経験を踏まえ大型イベントやコンソーシアム型イベントのバーチャル化に今後も挑戦していきたいです。例えば、モーターショーやコミックマーケットなど世界中にファンがいるイベントやコンテンツをメタバースならではの形で発信できたら素晴らしいと思います」(小山氏)

 一方、西村氏は、新しい顧客体験の創出に貢献したいと話す。「現状、ambrが得意なのは、エンドユーザー向けの体験づくりです。ゲーム会社や、エンタメコンテンツなどのIP(知的財産)を持つ企業のほか、自動車やファッション、食品・飲料など、消費者との接点を持っている企業と一緒に取り組んでいきたいですね」(西村氏)

企業が自社のメタバース空間を構築する未来へ

 今後も「日本から、世界に通じるメタバース事業を生み出す」という思いを共有しながら、両社で連携して事業開発を進める。ambrが持つ体験設計力やメタバース構築技術の開発力を最大限生かすために、電通グループがコンセプト開発やプロジェクトマネジメントなどの面で力を発揮していく。

 その上で、両社が思い描くのは、VRデバイスがさらに普及し、メタバース活用が一般的になる未来だ。企業にとっては、先を見据えてメタバースのような新しい技術を取り入れることは、将来への投資であるだけでなく、先進性を印象付けるブランディングの価値も高い。

 「21年のTOKYO GAME SHOW VRは、合計広告価値換算で8億円超のメディア露出がありました。今はメタバースに取り組むこと自体が注目されます。若い世代へのリブランディングにも活用できるのではないでしょうか」と小山氏は話す。

 その先には、事業活動におけるメタバース活用の拡大も見据える。西村氏は「今、多くの企業がWebサイトを開設しているように、あらゆる企業が自社の仮想空間を持つようになるのでは」と見る。その仮想空間には、コーポレートサイトや通販サイト、製品・サービスの体験コーナーなど、さまざまな機能があり、それぞれが顧客接点となる。「企業と一緒にそういった世界を構築し、世界中の人に使ってもらえる仮想空間を開発できるように成長していきたいと考えています」と西村氏は意気込む。

 メタバースをうまく活用すれば、場所や距離の制約を受けることなく、顧客とのコミュニケーションやブランディングの幅を一気に広げることができる。小山氏は「メタバースがさまざまな企業の価値を届ける手法の一つになると期待しています。ambrと一緒に、驚いてもらえるもの、喜んでもらえるものを世界に届けていきたいです」と話す。

 メタバースの可能性は広がり続けている。その広がりを注視し、事業活動に応用できる可能性を模索することは、ビジネス成長の加速につながっていくだろう。

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提供:株式会社電通グループ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年12月17日