ビジネスとデザインの不確実性に挑む、リクルート「デザインマネジメントユニット」の組織カルチャーを聞いてみたあのサービスのデザインはどうやって生まれた?

» 2023年03月07日 10時00分 公開
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 あらゆるモノ・コトがデジタル化する中で、デザインは「作って終わり」ではなく「作って成長させていく」仕事に変わりつつある。特にWebサイトやアプリ、クラウドサービスは、継続利用してもらうことが最重要。そのため、プロダクトデザインは時代のトレンドに合わせて見た目を進化させるだけではなく、「ユーザーから選ばれる存在」を追求し続ける必要がある。

 このような状況下、ビジュアルから戦略策定など、プロダクトに関するデザインを総合的かつ先進的にマネジメントしているのがリクルートのデザインマネジメントユニットだ。他に類を見ない、膨大な数のプロダクトデザインを担う組織では、どのような価値観の下でどのようなメンバーが活躍しているのか。同ユニットで部長を務める磯貝直紀氏と、デザインディレクターを務める小島清樹氏に、リクルートのデザインカルチャーを聞いた。

デザインのガバナンスがおろそかになっていた、過去のプロダクト

 デザインマネジメントユニットは、前身組織が2019年に設置され、現在まで拡大してきた比較的新しい部門だが、それを立ち上げた人こそ、現在、部長を務める磯貝氏だ。磯貝氏は、学生時代に建築、グラフィック、UI/UXと幅広くデザインを学んだのち、総合デザインファームに就職。7年間勤め、15年にリクルートへ入社した。入社後、複数のプロダクトに携わる中で感じたのは「デザイン職種への理解が足りない」ことだったという。

photo 磯貝直紀氏(リクルート プロダクトデザイン統括本部 プロダクトデザイン・マーケティング統括室 プロダクトデザイン室 デザインマネジメントユニット デザインマネジメント部 部長)

 リクルートでは、1982年から新規事業提案制度「Ring」を開催するなど、事業創造やプロダクト立ち上げなどの広義な意味でデザインと捉えられる領域には、以前から重きを置いていた。しかし逆に、「目に見える分かりやすい狭義なデザイン領域については、組織で分断されており、デザインに関するガバナンスがおろそかになっていた」(磯貝氏)。磯貝氏が自ら問題提起をする形で新しい部門の設立を社内で提案し、誕生したのがデザインマネジメントユニットだ。

 「デザインマネジメントユニットは、リクルートが持つプロダクトの幅広い工程に関わり、デザインの観点から価値を生む業務を担っています。その中で、自社全体にデザインマネジメント機能を横断装着していくため、組織戦略立案・推進をする、そして所属メンバーがより事業貢献しやすくなる仕組みづくりをすることが、私の役割です」(磯貝氏)

 一方、学生時代、国内外のデザインエージェンシーで学んだ小島氏は、2016年にリクルートに新卒入社した。「タウンワーク」「フロムエー ナビ」「カーセンサー」など複数のプロダクト領域を渡り歩きながら、前述したRingでグランプリを受賞。自ら企画に参加した新規プロダクトの立ち上げに関わる(詳細は後述)など、意欲的に経験を積んできた。

photo 小島清樹氏(リクルート プロダクトデザイン統括本部 プロダクトデザイン室 デザインマネジメント部 新領域デザインマネジメントグループ デザインディレクター)

 「欧州の美容室予約サイト『トリートウェル』への出向なども経験し、海外におけるデザイン、ブランディング、エンジニアリング業務も経験しました。帰国後『Airインボイス』の立ち上げにゼロイチで携わったのち、現在はHRデザイン領域の横断デザインディレクターとして、6つほどのデザインマネジメントを担当しています」(小島氏)

※15年6月のM&Aによりリクルートへ事業譲渡したオランダの企業およびサービス

本質的な価値を生み出すために、「個」が持つものを最大限に生かす

 リクルートのプロダクトは「人材」「住まい」「旅行」「学習」など領域が分かれており、それぞれにデザイン組織が存在する。デザインマネジメントユニットのデザインディレクターは、各領域を縦軸とすると横の機能軸でマネジメントしており、200以上ものプロダクトに横断で関わっている。「発足当初は草の根的な活動だった」と振り返る磯貝氏だが、今や約60人のメンバーを有するまでに成長。リクルートの事業には欠かせない存在だ。

「動かすデザイン」で、プロダクト開発に上流から関わる

 一聞すると領域ごとの組織から業務を請け負う、社内受注のような体制なのかと想像するが、それは誤りと磯貝氏は否定する。

 「デザインマネジメントユニットは事業組織 兼 機能組織であり、複数の事業にコミットできます。デザインディレクターは関わった事業の状況によってその役割を変えますし、誰かに指示を受けたことをただこなすような、本質的な価値が提供できない活動を重視していません。あくまでもプロダクトにコミットする一員となって、上流から開発に関わっています」(磯貝氏)

photo デザインマネジメントユニットが担う領域のイメージ図(提供:リクルート)

 また同ユニットは、「動かすデザイン」をフィロソフィーとして掲げている。これはデザインを原動力に事業を動かしていこうという、ボトムアップ型デザイン組織としての意思表示だ。

 もともとリクルートには、世の中の“不”を解決するため、主体的に問題提起、解決を目指す社内カルチャーがある。デザインマネジメントユニットでも、その文化を踏襲した上でフィロソフィーを定義し、実際に事業あるいはユーザーにとって「このプロダクトがなぜ必要なのか」、メンバーそれぞれが解釈、理解し推進していくスタンスを取る。この姿勢を支えているのは、プロダクト開発や顧客体験の向上など多くの物事をデザインで動かし、世の中に価値を提供したいというメンバーの熱意だ。

 小島氏は「デザインの強みとは、抽象的なものを具体化することにあると思います。それをプロダクトが生まれる最初の検討フェーズから組み込んで、より良いモノに仕立てていく。磯貝がいう『上流から』という視点は、現場でも強く意識されています」と、同ユニットのカルチャーを説く。

個人の可能性に賭ける――デザイン業務にも生きる、リクルートのカルチャー

 このように、デザインマネジメントユニットはリクルートのカルチャーを多分に含んだ組織だが、同社といえばかつて“体育会系”としてよく名前が挙がる企業だった。その点、デザインマネジメントユニットにどういう影響を与えているのか。小島氏に問うと「むやみにチャレンジ意欲を促したり、メンバーの思いとは関係なく精神論や根性論で諭したりすることを“体育会系”と表現するのであれば、社内でそういう光景は見たことはない」と話す。

 「リクルートは、個を尊重する、個人の可能性にベットする(賭ける)というカルチャーを持ち、メンバーの個性や“Will(意思)”を生かすことを重視しています。私としては、学校のようなイメージを持っていますね。学校には体育会系もいれば文化系もいるじゃないですか。リクルートには、そういった多様性を歓迎する空気があります。さらにボトムアップで物事を進める仕組みがしっかり機能しており、それが個にベットするカルチャーと結びついて、うまく循環していると感じます。『体育会系なのでは』と想像していた人には意外に感じられるかもしれませんが、ワークライフバランスももちろん重視しているので(笑)、ただガツガツと前に進むことだけを良しとするような企業ではありません」(小島氏)

デザイナーが飲食店で業務体験? ユーザー視点で探求する「本質的な課題解決」

 では実際に、先述した小島氏のRingグランプリ受賞から生まれた「Airメイト」の例を紹介しよう。Airメイトは店舗の経営アシスタントを行うクラウドサービスで、経営課題を可視化することを目的に開発された。

photo 小島氏が企画チームの一員として参加し、立ち上げたAirメイト

 具体的には、従来だと丸1日かかっていた多様な店舗データの集計を、Airメイトを通しリアルタイムで可視化することで業務を効率化。ヒューマンエラーを軽減できることはもちろん、売上の振り返りといったアクションも起こしやすくなる。加えて、経営上の問題点を素早く分析して提示するといった機能も備えており、経営層だけではなくスタッフでもインサイトの発見が容易に。週次・月次のレポートも自動作成されるため、それを基に月次会議などを行い、次の打ち手を検討する機会を新たに得た店舗もある。

 「Airメイトを使うのは、お店の店長やスタッフの方です。ただデータをビジュアライゼーションしただけのツールでは『楽しく使ってもらえないのではないか』。事前に店舗へ足を運び行ったリサーチを通し、そのように考えました。そこで、経営上の問題点を分析する機能の設計には、二つの工夫を凝らしています。

 一つは集計データから作成したグラフや数字を提示するのではなく、そこから得られるインサイトをメッセージとして生成し伝えること。もう一つは、Airメイトとユーザーのコミュニケーションを重視して、“表情”を活用したことです。具体的には、Airメイトに特定のキャラクターを登場させ、色や表情に変化を出すことで店舗の現状を表現するといった、視覚へのアプローチにこだわりました。B2Bではありますが、B2Cプロダクトのような親近感を覚える、楽しい要素を加えたチャレンジでした」(小島氏)

 小島氏に関わらず、デザインマネジメントユニットに所属するデザインディレクターはみな、「本質的な課題解決」を重視している。同社にはAirメイトのほか「Airレジ」など小売向けのプロダクトが複数あるが、小島氏の他にも「飲食店で一定期間、業務を体験して、プロダクトの使い勝手を試したり、どういう機能が必要なのか検討したりするデザインディレクターは少なくない」(小島氏)という。

 「本質的な課題解決のためには、一次情報を自ら取ってくることが非常に重要です。特に会社として強制しているわけではなく、本気でユーザーインサイトを捉えようと思ったら、結果としてその行動になった――というメンバーが多いですね」(磯貝氏)

 自分のミッションを自分で作り出す、そんな自由な裁量も認められているリクルートでは、「自分がやりたいことと会社の方針が一致するなら、チャレンジの幅はいかようにでも広げられる」(小島氏)ようだ。

他とも連携しながらチャレンジを続ける、そのスタイルこそが評価の対象

 上流からプロダクトに関わっていく上では、各領域のユニットとの連携も欠かせない。このときデザインディレクターは、職種の異なるメンバー間の共通言語を生み出す役割も担う。

 例えば、AIを生かしたプロダクト開発において、学習モデルの改善はエンジニアの仕事だと捉えがちだ。しかし、プロダクトにおけるデザインコンセプトを初期に打ち出すことで、よりAIフレンドリーなUI/UXの実現につながるなど、「デザインディレクター発信の方針が、大勢が関わる1つのプロダクト開発で共通認識になる例は多くある」(磯貝氏)

 これだけ多様な業務を担う以上、個人の業務に対する評価も難しくなるが、同社ではそこに「不確実性」というコアを利用して業務の難易度を定義している。これは、デザイン難易度と実務難易度を縦横の軸とし、いずれも難易度が高いフィールドを不確実性の高い業務とすること。この不確実性の高い領域では、職種にとらわれた業務に縛られず、課題の解決に必要な幅広い活動が許容されている。そのため、自然とキャリアの積み方も多様性を持つようになる。

 「個人としては、目の前に何かしらの選択肢があったときは常に不確実性の高い方向に進むことを心掛けています。結果として、普通なら転職しなければ実現し得ない多様な経験を積めました。これは、リクルートでデザイナーを続ける大きなメリットですね」(小島氏)

デザインの力で、一歩、二歩先の世界を生み出す

 多様化するニーズに対応したプロダクトデザインを生み出すためには「変わっていく常識の、一歩、二歩先を捉えること」(小島氏)が重要だ。そのためにも、リクルートが持つデザインマネジメントユニットと、そこで活躍するデザインディレクターは、今後多くの企業に必要になる視点を持っているのではないか。両氏は最後に、今後の展望についてこう語る。

 「現在は視覚偏重のコンテンツが多いように見えますが、より良いユーザー体験はあらゆる感覚によって成立し得えますし、それがデザインの対象にもなり得ます。そのため、個人的には五感全てを自分のデザイン対象としたい、他の感覚も踏まえたモノづくりを追求していきたい。その上で、いわゆるプレイングマネジャーのような存在を目指したいと考えていますが、そこに自分なりの付加価値をつけ、言葉の意味を再定義したいという気持ちもあります。世に共通する肩書に収まらない、そんなデザイナーを目指したいですね」(小島氏)

 「われわれは、色や形といった狭義のデザインより、もっと広義のデザインを目指していくべきだと常に考えています。そのためには、組織内のスキルや人材などの多様性も必要になる。今後はその多様性を、従来以上に高めていくことに努めたいと思います」(磯貝氏)

 「リクルートのデザイン」を支えるデザインマネジメントユニット。彼らが今後生み出す新しい世界に、今後も期待したい。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2023年3月20日