運用型広告「絶え間ない改善」をAIで自動化、どうやって? 博報堂テクノロジーズ発のマーケ変革ツールはいかにして生み出されたか

» 2024年03月05日 10時00分 公開
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 ChatGPTによってもたらされた「第4次AIブーム」。各業界がAIの開発や研究に取り組み創造性の向上や業務効率化に注力しているが、それは広告業界も例外ではない。こうした状況下で、クリエイティブ制作の効率化や質の高度化を実現するAIワークフローシステム「Creative Table PINGPONG」(以下、PINGPONG)を開発したのが、博報堂DYホールディングスグループの博報堂テクノロジーズだ。

 しかし、広告のクリエイティブ制作はトレンドを押さえつつビジュアルを追求することに加えて、マーケティングの知見も必要になる。生成AIで自動化を図るのは、ある意味難しい領域とも言える。同社はどのようにしてソリューションを開発しているのか。担当エンジニアを取材した。

広告制作をAIで支援する機能を次々に開発

 PINGPONGは、デジタル領域の広告クリエイティブや運用などを支援するため博報堂DYグループのアイレップが社内ツールとして開発したのが始まりだ。随時新たな機能を追加しながら、現在はグループ全体の広告クリエイティブやマーケティングに活用されている。

 開発チームを率いているのは、アプリケーション開発部の多田祐一郎さん。2023年2月にアプリケーション開発部の前身組織であるアイレップに入社して同年5月からPINGPONGの開発チームに配属になり、以来チームリーダーを務めている。

photo 博報堂テクノロジーズ プロダクト開発センター アプリケーション開発部 多田祐一郎さん

 「私が入った当初、5人ほどだった開発チームは現在9人まで拡大しました。基本的にはエンジニアのみで構成されており、スクラム開発を採用しています。1つの案件ごとに担当者を分けて、複数の開発を同時進行で進めるという作業体制を取っています」

 PINGPONGの開発は、広告を作る過程のワークフローを管理するところからスタートした。そこから、AIを活用して広告の制作を支援するといった新たな機能を次々と追加している。

 主要なAI機能である広告クリエイティブ成果予測AI「H-AI IMAGES」は、過去の広告を学習したAIモデルが配信前のデジタル広告の制作物を評価する。100点満点でスコア化することでクオリティーを判定できる。

 クリエイティブの制作をアシストする機能では、ChatGPTを活用して商品のターゲットとなるペルソナの設定や訴求軸、さらにはキャッチコピーなどを自動で生成できる。これらの機能は1カ月足らずで開発した。

 加えて、クリエイティブを制作するデザイナーを支援するためAdobeのPhotoshopやAfter EffectsにPINGPONGをプラグインとして実装。Photoshopの画面でPINGPONG(クラウド)にデータを保存できる他、Slackと連携することでディレクターとのやりとりも一画面で可能にした。アプリケーションを切り替えることなく、全ての作業がアプリケーション上で完結できる点は効率化に寄与するため社内でも好評だ。

 多田さんは「Adobe製品との連携は、デザイナーがクリエイティブに注力できるようにと開発したものです。グループ内には数百人のデザイナーがいて、毎日100人以上がPINGPONGのプラグインを活用して制作しています」と話す。

スクラム開発を学びながら開発チームを改革

 そう笑顔でPINGPONG開発を語る多田さんは、岡山県出身。高校と専門学校で情報系の技術を学び、東京で情報通信サービス会社に就職した。その後、岡山にUターンして地元のSIerに転職。開発から運用保守まで一通り経験して、10年ほど勤務した後にアイレップに転職した。

 「最初に就職したときは、東京は肌に合わないと思ってすぐに岡山に戻りました(笑)。ただ、10年もたつと考えも変わります。今後のキャリアをイメージしたとき、いろいろな企業が密集する都市部の方が、経験値が得られると考えて再び東京に出てきました」

 そのようにしてアイレップに入社してPINGPONGのチームリーダーまで任されるようになった多田さんだが、当初は幾つかの課題があったと振り返る。一つは、スクラム開発の経験がなかったことだ。

 「それまではSlerにいたので、ウォーターフォール型の開発経験しかありませんでした。スクラム開発は知識としては知っていたものの実践経験がなかったので、最初は猛勉強しました。Udemyで講義を受けたり関連記事を端から読んだりして、ベーシックなスクラムとは何かということを頭にたたき込むところから始めました」

 もう一つの課題は、チームの開発体制を立て直すことだった。PINGPONGはグループや社内向けのソリューションであるが故に、顧客のいる製品とは違って納品時期が曖昧だった。そのため、開発スケジュールを管理できていない状態に陥っていたという。

 「毎日朝会は開かれていたものの、進捗(しんちょく)確認などは行われず会自体が形骸化していました。プランニングや振り返りもしておらず、名ばかりのスクラム開発になっていたと思います。この状態を放置したくなかったので、スクラムの勉強をしながら開発体制の改革に着手しました」

 多田さんがまず取り組んだのが、ベーシックなスクラム開発の型にはめることだ。毎週1回プランニングの会議をして、1〜2週間の短いスパンのスプリントで繰り返し開発を行った。朝会で報告すべきことを明確化して、スケジュールを守ることを徹底した。その際に多田さんは、ワンマンプレイにならないように気を付けたと話す。

 「私はチームリーダーでしたが、それはあくまでポジションです。スクラムはみんなで取り組むものであり、誰かの号令で機能するものではありません。大枠だけは私が決めましたが、基本的にはメンバーにヒアリングしながら開発体制や進め方を大きく変えました。ありがたいことにメンバーは協力的でネガティブな意見も出なかったので、5月に始めて秋ごろには形になってきたと思います」

 開発体制の改革には、どのような効果があったのか。多田さんはこう話す。

 「やはり開発スピードは上がりました。それまで新機能の実装は2〜3カ月に1回くらいでしたが、今では1カ月に幾つもの機能をリリースできるようになっています。迅速に開発することで、デザイナーをはじめとする社内ユーザーにPINGPONGの価値を今まで以上に感じてもらえるようになったのではないでしょうか」

 これをきっかけにチームのコミュニケーションが活発になり、開発を通して得られた知見をチーム内で共有する動きも生まれた。各自が得たノウハウやスキルを、トピックスとして隔週の会議で発表し合う。その理由を多田さんは次のように説明する。

 「エンジニアにとって、インプットとアウトプットはどちらも欠かせない作業です。人に教えることで初めて自分も理解できたと思えることがよくあります。アウトプットする環境をつくることによって、エンジニアが成長する土台のようなものがチーム内に築けているのではないかと思っています」

開発チームもエンジニア個人も成長できる環境

 現在のPINGPONG開発チームには、キャリアも浅く年齢も若いメンバーが多い。二人一組でプログラミングをするペアプロやさまざまな場面でのレビューなどを通して、ワンチームで若手メンバーの技術力向上を図っている。

 トレンドや新しい技術はメンバー全員でアップスキルに努めている。AIを活用した機能を開発するたびに、どのような機能をどのような設計で作ったのかについてミーティングで共有する。こうした取り組みを通して多田さんがチーム運営で重視しているのは、メンバーが高い温度感を持って働ける環境をつくることだ。

 「私自身、モチベーションを高め合える環境で働きたいと考えて転職しました。入社時には、取締役との面接だけではなく現場の人からも話を聞いて、開発への熱量を感じることができたことが決め手になったという経験もあります。

 過去の自分を振り返り、外部から見て『この人たちと働きたい』と思える活発なチームを作りたい――そう考えて、PINGPONG開発チームでも新しい知見をどんどん吸収できるなど刺激を与え合える環境を構築してきました。プランニングの会議はスタンディング形式で意見を出し合っています。実際に手を動かして得られる知見を重視した、活発に動けるチームができつつあるのかなと感じています」

 博報堂テクノロジーズは、働き方の自由度が高い。裁量労働制が採用されているため、例えば残業した分は別の勤務時間に充てる、必要に応じて出社とリモートを切り替えるなど自身でメリハリをつけながら働ける。PINGPONGの開発メンバーは、プランニング会議をする毎週火曜日だけ出社して、他の日はリモートで勤務する体制を取っているそうだ。

 「週1回だけは顔を突き合わせて議論して、他の日は柔軟な働き方ができています。私は前職がフル出社だったので最初はフレキシブルな環境に驚きましたが、今では慣れて、生産性向上に生かせる勤務体制であることを実感しています。1人に仕事量が偏らないように配慮しているので、ワークライフバランスも取れています。時間の融通が利く、働きやすい職場ですね」

 PINGPONG開発チームは、今まで以上にAI機能を追加していくことを今後の目標にしている。多田さんも、さらに成長できるように新たな挑戦をしたいと語る。

 「広告の根幹を支えるサービスの開発に携わっていることに、大きなやりがいを感じます。私たちが機能を改善することによって広告の品質が高まり、制作のスピードも上がるなど、効果は目に見えて出ています。スクラム開発を確立できましたが、今後も現状に満足することなく継続して手法を磨いていきたいですね。

 その一方で、私はミドルプレイヤーとして入社しているのでプロダクトにとどまらない動きをしたいと考えています。自分でプラスアルファ、チーム成長のために『できること』を見つけて取り組んでいけるよう、これから出会えるメンバーと共にこの会社で成長していきたいです」

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