日本の会計基準を策定する企業会計基準委員会(ASBJ)が検討している新リース会計基準。その最終化が難航していることは、各種報道で伝えられている通りだ。「2023年11月に開かれたASBJ審議会で、24年3月末までの基準最終化が困難なことが説明され、3月1日時点で基準公表に至っていません。これらを勘案すれば、新リース会計基準の強制適用の時期は当初見込みの26年度から27年度以降にずれ込むのは確実と言えます」と語るのは、プロシップの巽俊介氏(取締役 システム営業本部 本部長)だ。
最終化が難航する原因の一つが、新リース会計基準が企業の経理/会計業務に与える影響の大きさだ。不動産や設備などの資産を借りて使用するリースの借り手は従来、中途解約できず実質的に購入に近いファイナンスリース取引のみを貸借対照表に計上すればよかった。
対して新リース会計基準では、投資家が企業の経営実態をより正確に把握できるよう、金銭で使用権を得ている取引(リース契約やレンタル契約、不動産賃貸契約など)の全てを原則、使用権として資産計上するよう企業に求める見通しだ。
対応のためには、新たにリースと見なされる全ての取引で現在のファイナンスリースと同様の手間のかかる経理/会計処理に変更しなければならない。本社経理によるリース情報の網羅的な把握も不可欠となるが、リースが現場主導で利用されてきたことを考えると情報収集も一筋縄ではいかないことは容易に想像がつくだろう。
「全社のリースを把握して適切に経理/会計処理するには、契約書の洗い出し、業務とシステム双方の見直しは避けられません。その点を考えると、当初予定されていた強制適用のスケジュールは時間的な猶予が極めて限られていたと言わざるを得ません」(巽氏)
新リース会計基準の公開草案のパブリックコメントには、プロシップをはじめ経団連なども「適用までの猶予期間の延長」を求める意見書を提出している。各種の経営数値に与える影響の大きさも課題視され、寄せられたコメントの数は最終的に個人、団体を合わせて45に達している。
新リース会計基準の強制適用期日が1年延期されたことで、当初見込みよりも1年多い3年の準備期間が確保されたことになる。今後は、上場企業で期日までの確実な対応が進むことになるが、巽氏によると、その進捗(しんちょく)は企業が置かれた状況の違いによって「前向き」と「後ろ向き(先延ばし)」の2極化が進んでいるという。
前者の企業に共通するのが、数多くのリースを利用し、経営層自身がその数や金額の多さに危機意識を持っていることだ。オーナーの物件を入居者に貸し出すサブリースをはじめとする不動産業、店舗数が営業力に直結する小売や流通業、物流拠点が全国に多数ある物流業、船主から借り受けた船で貨物を運搬する海運業などが多いという。
「それらの企業では、すでに外部コンサルタントに依頼して対応ロードマップを取りまとめるなどの作業を進めている場合も多いです。強制適用が1年延びても当初のロードマップを見直す企業はほとんどありません」(巽氏)
中には新リース会計基準対応を“攻めの制度対応”への変革を目指す格好の機会と捉える企業も現われているという。リースが現場主導で利用され、本社経理による情報の集約が進んでいないことはすでに触れたが、裏を返せばリースに関する各種情報や知見を社内で共有、活用できていないということでもある。
「蓄積した情報は企業の貴重な財産ですが、リース情報は現状、各現場に散在しており全社活用が極めて困難です。この状況が新リース会計基準の対応に向けたリース情報の集約によって一変します。流通業などからは、資本コストを意識した企業の意思決定に役立てたいと、攻めの制度対応を視野にシステム化できないかとの相談が寄せられています」(巽氏)
一方で巽氏が危惧するのは、強制適用期日の延長を受けて対応を先延ばしにした企業の動向だ。新リース会計基準の情報の乏しさや業務の多忙さ、利用中のリースが少数であるなど理由はさまざまだが、対応を先延ばしにすると思わぬトラブルに直面するリスクも増加する。
巽氏は、「いずれ対応しなければなりません。であるならば、できる限り余裕を持ったスケジュールを組んだ方が安心で、リスクもそれだけ低減させられることは言うまでもありません」とアドバイスする。
想定されるリスクの一つが、「貸借対照表への影響」だ。新リース会計基準では使用権資産とリース負債を新たに計上するため資産や負債の合計が必然的に増え、自己資本比率が低下するなど、各経営数値に大きな影響を及ぼす。さまざまな調査でも、多くの企業が経営へのリスクを指摘している。リース資産の計上後、その物件が含まれる資金生成単位が減損対象になるため、「減損リスクの上昇」や有利子負債が増加することで「格付けへの影響」や「PBR(Price Book-value Rati:株価純資産倍率)の影響」なども想定される。
経営数値への影響をいち早く把握して経営層に報告することは、企業の意思決定を支援する経理/財務部門の責務と位置付けられる。その支援のためにプロシップは「影響額試算ソリューション」を提供している。
リース料金や期間など約10項目の入力で、リースのオンバランス化に伴う貸借対照表や損益計算書への影響額などの算出が可能だ。契約年数や割引率などを変えたシミュレーションもできるので、各社に適した対応方針の検討に役立てられる。SaaSなので各部門や子会社への展開も容易だ。大手の不動産会社や家電量販店など、すでに多くの利用実績がある。
「新リース会計基準のシステム側の対応では、リースに関するデータ移行が必要です。影響額試算ソリューションは今後、新リース会計基準に対応したプロシップの固定資産管理ソリューション『ProPlus』へのデータ連携も計画しており、登録作業の負担を軽減するツールとしても活用が見込めます」(巽氏)
新リース会計基準への対応に向けた現状の“壁”の一つが「情報の乏しさ」だ。その打開に向け、プロシップは各種セミナーの開催に力を入れている。
対応に備え、担当者が新たに学ぶべきことは多い。その代表例が「どの取引がリース契約であるか」だ。巽氏によると、「特定された資産はあるか」「資産の使用により、ほとんど全ての経済的便益を得る権利を有しているか」などの条件を基に判定される。
「クラウドサービスも、その提供形態によって判断が変わります。SaaSは多くのユーザーでシステムを共用するため特定された資産があるとは言えず、リース契約とは判断されない可能性が高い。一方で、プライベートクラウドはシステムを占有利用することから、特定される資産と言えます。その結果、リース契約と見なされる可能性があるのです」(巽氏)
「リース期間の見積もり」も大きな論点となる。検討にあたっては他の会計基準との整合性も意識する必要があり、「資産除去債務」「将来的に収益を見込める期間」「税法上の耐用年数」なども考慮した上でリース期間を見積もると考えられる。その場合、リース期間は20〜30年と長期になり、使用権資産と使用権負債の双方もそれだけ膨らんでしまう。
「新リース会計基準では、借り手が解約できない期間に加えて延長/解約オプションの行使が『合理的に確実』である期間も含めなければいけません。合理的に確実とはどの程度のなのか、この判断次第で各社の計上額が大きく変わることが想定されます」(巽氏)
このように、新リース会計基準の円滑な対応のためには「基準の中身だけでなく監査法人との付き合い方に関する知識も大きなポイントになる」と巽氏は力を込める。
「プロシップは、新リース会計基準の基礎となったIFRS16号の適用支援に取り組んできました。これまで支援してきた国内企業は約100社にのぼり、その経験を基に一つ言えるのは、円滑な対応を実現した企業は、自社の事業にとって重要なリースだけを計上しているということです。そのために、取引の重要性が低いことなどを理由に監査法人と協議し、特定の契約はオフバランスにするなどのロジックづくりなど、企業が学ぶべきことは多くあります」
プロシップは、蓄積した知見を伝授する無料セミナーを「初級編」「一般向け」「業種別」といったカテゴリーごとに開催している。月に2〜3回の頻度で開催しており、監査法人との協議にあたっての勘所なども解説しているという。「セミナーの開催情報はWebサイトに掲載しています。情報収集の場として、気兼ねなくご活用いただければ幸いです」と巽氏は笑顔で語る。
新リース会計基準への対応が本格化する中、プロシップはシステム対応に向けたProPlusの提供のみならず知識やノウハウの提供においても今後、より大きな役割を果たすことになりそうだ。
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