顧客ニーズが多様化している現代、製品やサービスを差別化して競争力を強化するためには、顧客の声(VOC)の活用が欠かせない。その鍵を握るのがコンタクトセンターだ。金森マーケティング事務所代表の金森努氏は、コンタクトセンターを「お客さまの貴重な意見が集まる“宝の山”」と表現し、マーケティング戦略のみならず経営方針の策定に貢献できる部署だと解説する。一方で「その価値を知らずうまく生かせていない企業が多い」と続ける。
コンタクトセンター特有の課題を解決してコンタクトセンターを“プロフィットセンター”に進化させるためには何をすればよいのか。金森努氏と、都築電気のコミュニケーション領域を担うボイスクラウドビジネス統括部の平林謙太郎氏に話を聞いた。
――マーケティングのトレンドについて所感をお聞かせください。
金森氏: 最近は、顧客データなどを基にした「データドリブンマーケティング」という言葉が注目されるようになりました。その実現のために多くの企業がSFAやCRMを導入して定量的なデータを集めていますが、顧客行動を理解して多様なニーズをキャッチするためには定性的なデータに重きを置くことが重要です。
金森努氏(金森マーケティング事務所 代表)多くのマーケターが大切にしている調査が、1対1でインサイトを徹底的に掘り下げる「デプスインタビュー」です。ユーザーの真のニーズを吸い上げて、裏付けのために定量調査を実施する流れが主流になってきています。しかし、デプスインタビューだけでは十分なサンプルを集められません。そこで活用すべき場がコンタクトセンターです。
平林氏: コンタクトセンターは、定量と定性の両方のデータを取得できる場だと考えています。お客さまとコミュニケーションする際に、「受注ありがとうございました」ではなく、「前回もご購入いただきましたね」「リピートありがとうございます」「なぜまた買っていただいたのですか」というような会話ができると意味のあるデータを集められます。
金森氏: そういう意味では、いかに顧客を“ファン化”させるかが重要です。クレーム処理やトラブルシューティングというシーンでは、お客さまが怒っていたり困っていたりする状態から、納得していただいてトラブルの解決に導いていきます。納得していただける解決策を提示できれば、お客さまは会社のファンになってくれるはずです。
平林氏: ファン化したお客さまがリピーターになると、積極的に良い口コミを発信するなど、企業側についてくれるようになります。
金森氏: コンタクトセンターは、マーケティングや営業要素において強い武器になるわけです。しかし残念ながら、多くの企業がまだそれに気付いていません。
――コンタクトセンターをマーケティング活動で生かすためには、どのような課題があるのでしょうか。
金森氏: コンタクトセンターのKPIの設定に問題があると感じています。ある航空会社のKPIは、「いかに短くコールを処理するか」というものでした。
お客さまが航空券を予約した後、現地の移動方法やその他の要望といった確認事項が生まれます。しかしそのようなKPIが設定されているため、オペレーターはそうした問い合わせに対して「現地でご確認ください」と伝えてすぐに切ってしまう――これではクレームにもつながりかねません。しかし、クレームは対応したオペレーターに直接寄せられるわけではないので責任を取る必要がありません。“とにかく早く終わらせる”ことが重要だという間違ったKPIの設定になっていたわけです。
逆に、お客さまといかに長く話せたかを評価する企業もあります。ある化粧品会社のカスタマー窓口は、オペレーターのモニターに、発信エリアの現在の天気が表示される仕組みを導入していました。「今日は晴れていて気持ちがいいですね」と、何げない内容から会話を始めることでお客さまとの話が弾み、お客さまは商品に対しての意見も言いやすくなります。
平林氏: 天気の情報が出るという話に感心しました。まさにCRMに基づいた仕組みですね。顧客に寄り添い、顧客の声を引き出すCXセンターとしてコンタクトセンターの在り方が体現されていると思います。KPI管理は高効率のコンタクトセンターを目指す上で重要な取り組みとなりますが、誤ったKPI設定をしてしまうとCXを損なう恐れもあります。
コンタクトセンターは顧客体験を左右する重要なチャネルです。顧客体験を向上し、より深い顧客理解やエンゲージメントの向上を実現するには、高効率とCX追求のバランスのとり方が非常に難しい問題です。この課題を解消するためにコンタクトセンターを中心に据えてCXを変革する「コンタクトセンターDX」を推進すべきです。
――コンタクトセンターDXの意味するところを教えてください。
平林氏: デジタル技術を活用してCXを変革することでしたが、AI技術の急速な発展により、会話データを活用しコンタクトセンターの概念を変革することと定義しています。
金森氏: 集めたデータをどのように活用するかが重要です。技術革新によって、定量的なデータだけでなく定性的なデータの活用も可能になってきました。
平林氏: 先ほどの通話時間の長さをKPIにした企業の話ですが、お客さまとの会話が長くなるとACW(After Call Work:平均後処理時間)も長くなりがちです。VOCとして活用するためには通話履歴をしっかりまとめるべきですが、ACWが長くなると電話応対に割ける時間が短くなってオペレーターの負担も増えるというジレンマが生じます。
そこで利用できるのが生成AIです。音声データをテキスト化するだけでなく、商品の改善に関する意見や感想など、ポイントを絞って抽出します。今までオペレーターが手作業で入力していた時間の短縮と内容のばらつきの削減が可能なのでマーケティングデータとして活用しやすくなるでしょう。
金森氏: 通話内容を短く効率的にまとめることだけを意識すると、お客さまの貴重な意見を全部そぎ落として、「ご納得いただきました。以上」で終わってしまいがちです。そこに宝の山が眠っているかもしれないのに、本当にもったいない話です。情報収集から後処理、フィードバックというサイクルの中でコンタクトセンターDXという考えが浸透すれば、受注につなげたり新製品開発のヒントが得られたりと、バリューチェーンのさまざまな場面に良い影響を及ぼすのは間違いありません。
平林氏: 「不満はないがリピート購入はしない」「意見はあるがわざわざ電話はしない」というサイレントカスタマーの言葉を引き出して分析して製品やサービスを改善することで、リピーターは確実に増えるし売り上げにつながる可能性があります。
都築電気は、事業変革と企業文化を両輪で変革する提案を重視しています。CXの向上を目指すには、従業員体験(EX)も高めていくべきです。お客さまからポジティブなキーワードを引き出すためには、オペレーターもポジティブな人であるべきです。自社の製品やサービスに自信があって、「この商品良いですよね」という共感を基にキーワードを引き出す方がより良い会話を生み出します。それがCX向上につながり、ファン化したお客さまからパワーをもらってEXがさらに高まるサイクルが生まれます。CX、EXの相乗効果が生まれる企業文化を醸成することが組織変革のポイントだと考えます。
金森氏: オペレーターの負荷が重くなり過ぎたり、KPI設定が間違っていたりしていると、お客さまから寄せられる声を拾い切れません。ACWの削減ばかりを追求し過ぎた結果、得られるはずのインサイトを取り逃がしている企業は多いです。
ここにDXの考え方を取り入れて、AIで会話を解析、テキスト化して他部門と共有できる仕組みをつくれば、お客さまと濃いコミュニケーションを取りつつ業務効率を向上させられる可能性があります。お客さまが何を求めていて、どんな感情を持っているのかを理解することが全てのビジネス活動の土台になります。その最前線にいるのがコンタクトセンターです。ぜひ、その可能性を最大限に引き出してほしいと思います。
――マーケティングやコンタクトセンター運営に課題を抱えている読者にメッセージをお願いします。
平林氏: コンタクトセンターを改革するにあたり「どのようなツールを入れるべきか」という方法論から入ると、「本来の課題は何か」という本質がおざなりになってしまいがちです。まずは、どのようなコンタクトセンターを目指して改革すべきなのか、実現するための課題は何かを明確にする必要があります。マーケティング領域でコンタクトセンターを活用できている企業はほんのわずかですが、コンタクトセンターは顧客接点の第一線です。業績に貢献できるプロフィットセンター化を目指して改革を進めていただきたいと思います。
金森氏: 繰り返しになりますが、マーケティングの基本は顧客視点です。経営者も会社を離れたら生活者の一人です。生活者の視点になったときに、どうなればうれしいと感じるかを考えてみるとよいでしょう。顧客のニーズがどこにあるのか、何を解決してほしいのかに目を向けて、自社のコンタクトセンターの“あるべき姿”をどう描くか考えてほしいと思います。バリューチェーンの中にコンタクトセンターをうまく組み込んで、一体化していくことが重要です。
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