日経が世界の経済メディアのなかで「大きな存在感」を示すのが難しい理由:スピン経済の歩き方(1/4 ページ)
日本経済新聞社がフィナンシャル・タイムズを買収した。日経は紙面で「世界のビジネスメディアで大きな存在感を示すことにもなる」と胸を張っていたが、ちょっと言葉には気をつけたほうがいい。なぜなら……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
7月23日、日本経済新聞社がフィナンシャル・タイムズ(以下、FT)を買収した。
独大手アクセル・シュプリンガー、米ブルームバーグ、トムソン・ロイターという世界の名だたる経済メディアが水面下で交渉を進めていたところへ5週間前に割り込んで、FTグループの年間の営業利益の35倍にあたる1600億円をキャッシュでポーンと出してかっさらったのである。
ここまで日経がなりふり構わずFTを欲したのは、「世界に通用するブランド力」を手にしたかったからだといわれる。日本では「クオリティペーパー」なんてチヤホヤされる日経だが、世界的にみると「Nikkei Index」(日経平均)という用語は知られても、グローバルメディアとしての知名度はかなり低い。あくまで「日本人向け」だからだ。
日経の強みは、膨大な金融データと日本企業にはりめぐらされた情報網、そして速報性だ。そこへFTの知名度が加われば世界でも十分に勝負できると踏んだわけだ。
そんな日経の鼻息の荒さは、買収発表の翌日の紙面からも伝わってくる。
日経とFTの組み合わせは、世界のビジネスメディアで大きな存在感を示すことにもなる。電子版の有料読者数(合計93万)は米ニューヨーク・タイムズ(NYT、91万)を抜いて世界トップになるほか、新聞発行部数はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、146万部)の2倍強になる。(2015年7月24日 日本経済新聞電子版ニュース)
胸を張りたい気持ちはよく分かるが、ちょっと言葉には気をつけたほうがいい。「世界トップ」の93万のうち40万以上は日本人しか読まない「日経電子版」。これで「世界で大きな存在感」とは自惚(うぬぼ)れが過ぎる。「買収のメリットを強調せよ」という経営幹部からお達しがあったのだろうが、日本のいたいけな読者をミスリードしてしまう。
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