日経が世界の経済メディアのなかで「大きな存在感」を示すのが難しい理由:スピン経済の歩き方(4/4 ページ)
日本経済新聞社がフィナンシャル・タイムズを買収した。日経は紙面で「世界のビジネスメディアで大きな存在感を示すことにもなる」と胸を張っていたが、ちょっと言葉には気をつけたほうがいい。なぜなら……。
日本の新聞が大きく成長したワケ
欧米のジャーナリストはバックボーン的にも、このような「新聞」をうたう機関紙に詳しい人が多い。FTでウィーン駐在員を務めたことがあるハンガリー人ジャーナリストのパウル・レンドヴァイさんもそのひとりだ。彼はハンガリー社会党中央機関紙の編集部員として働いたキャリアを生かし、旧ソ連圏の情報政策をテーマにした『操られる情報―ソ連・東欧のマス・メディア』(朝日新聞社)という本を書いており、そのなかで「退屈な新聞ほど部数が出る謎」について考察している。
こうした党の新聞は、読者にも仲間うちでもじつに退屈とおもわれているのに、それでも発行部数だけは、もっと動きもあって内容も面白い他の朝刊紙や夕刊紙にくらべて、少なくとも三倍になっている、ということである。<プラウダ>とソ連の他の日刊紙との比率ではもうちょっとバランスがとれているとはいっても、ソ連でも、比較すればいちばん退屈な新聞が、最大の発行部数をほこっているのである」(操られる情報 P21)
確かに日本の大新聞を「面白い!」「刺激的だな」と読んでいる人はあまり見たことがない。退屈なことこのうえないが、上司から「営業マンなんだから日経くらい読め」と嫌味を言われたり、教師から「朝日新聞は試験に出るから読んどけ」と言われて渋々読んでいるという人がほとんどだ。
つまり、日本人にとって新聞の購読というのは、「共産主義国家における党員の義務」のようなものなのだ。日経が注目を集める今、この「真実」に欧米のジャーナリストたちが気づくのは時間の問題だろう。
それはFTの記者たちも同様である。「ジャーナリスト」にとって「機関紙」に雇われるのは耐え難い屈辱である。日経が世界のビジネスメディアのなかで大きな存在感を示すのはなかなか難しいかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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