氷河も眺望できるヨーロッパ最高峰駅、約100年前の誕生秘話:標高3454メートル(1/4 ページ)
スイスにあるユングフラウヨッホ駅をご存じですか。標高3454メートルの場所にあるこの鉄道駅ができたのは今から約100年前。その陰には技術革新などさまざまなエピソードがありました。
富士山とほぼ同じ標高に鉄道駅があるのをご存じでしょうか?
ヨーロッパで最も標高の高い鉄道駅がスイスにあります。その名はユングフラウヨッホ駅。営業距離9.3キロメートル、標高差1393メートルを駆け上るユングフラウ鉄道の終着駅です。
ユングフラウヨッホ駅はユングフラウ三山の間にあり、標高は3454メートルなので富士山なら9合目手前に相当します。そんなに高いところまで鉄道で行けてしまうなんて信じられませんでした。しかも開業が1912年と聞いてさらに耳を疑いました。100年以上も前にこのような場所に鉄道を敷設することが可能だったなんて。雪山の自然を目の当たりにして感激しつつ、昔の技術革新とビジネスについても考えさせられました。
ユングフラウ三山はユングフラウ、メンヒ、アイガーの3つの山の総称です。最も高いユングフラウは「若い娘」という意味で、アイガーは最も急勾配で険しく男性のイメージ、メンヒは温和な僧侶に見立てられています。若い娘を猛々しい男性から守るために僧侶が中間に立つという相関関係です。山を擬人化する想像力は土地柄を表しているようでほほえましいです。
ユングフラウヨッホ駅を降りると「トップ・オブ・ヨーロッパ館」があり、内部には鉄道敷設の歴史や周囲の景色を見ることができる各種展示が用意されています。鉄道敷設までの経緯は予想外に面白いものでした。この駅ができるまでの歴史を少しひも解いてみます。
一晩で鉄道ルートを練り上げる
19世紀のスイスに鉄道事業の資産家、アドルフ・グイヤー・ツェラー氏がいました。もともと新しい技術や新しいことに積極的なマインドの持ち主だったそうです。あるとき、ツェラー氏が娘とユングフラウ三山のふもとでハイキングをしていたとき、ユングフラウ頂上までの鉄道敷設計画をひらめいたそうです。もしかしたらお嬢さんをユングフラウ山の高いところまで連れて行きたかったのかもしれませんね。
そのときのツェラー氏のひらめきは運命の啓示だったのかもしれません。館内には「思いついたぞおおおー!」と言わんばかりのツェラー氏の像がドラマチックに展示してあります。入浴中に思いついたかのような出で立ちが若干気になりますが……。
ツェラー氏はひらめいたその日のうちにホテルで徹夜して構想をスケッチしたそうです。そのスケッチは像の足元の床にも刻まれています。実在するルートとほぼ同じです。一晩でそこまで構想を練ることができるなんて、それだけ山の地形にも詳しかったのでしょう。
しかし、いくら鉄道の専門家といえども、ユングフラウの山頂までトンネル経由で鉄道を敷設するなんて発想は斬新……を通り越して無謀に近いように思えてなりません。21世紀の今でもこんな計画を聞いたら「無理無理!」と言ってしまいそうな気がします。とはいえ、不可能と思えることでも果敢に挑戦する人がいて道は切り開かれ、世界は変わっていくのです。
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