氷河も眺望できるヨーロッパ最高峰駅、約100年前の誕生秘話:標高3454メートル(3/4 ページ)
スイスにあるユングフラウヨッホ駅をご存じですか。標高3454メートルの場所にあるこの鉄道駅ができたのは今から約100年前。その陰には技術革新などさまざまなエピソードがありました。
新技術で鉄道工事がスピーディーに
今、旅行者がユングフラウヨッホ駅に行くなら、インターラーケン駅など山間の宿泊地から鉄道に乗るのが一般的です。それだと大人1人往復でおよそ3万円。実際はスイストラベルパスやユーレイルパスなどの各種割引があるので、東京〜大阪間の新幹線往復料金をイメージすればいいと思います。
鉄道工事はほぼ手作業が中心でした。部分開業したあたりからダイナマイト発破によるトンネル掘削が始まります。のみだけで掘っていたら一体何年かかったか分かりませんが、ダイナマイト発破という新しい技術が鉄道敷設という事業を可能にしたのです。サグラダ・ファミリアが3DプリンターやITを駆使して工期が半減した話と似ています。新しい技術は時間の流れを変えるのです。
いざ山を掘ってみると岩盤は大理石のように固いものの、崩れるともろく、扱いは厄介だったそうです。また当時はダイナマイトを使うことは珍しく、爆発事故に見舞われるなどの苦難もありました。しかし、そうした試行錯誤を経て技術は磨かれていったのでしょう。
余談ですが、ドイツのシーメンスが線路敷設のために工作機械を提供したり、労働者はイタリアからの出稼ぎが多かったりと、さまざまな国の人たちがかかわっていました。冬に入る前には建設基地となるアイガーグレッチャーに一冬分の食料が運び込まれたそうです。イタリア人の作業員が多かったため、パスタは800キログラムもあったのだとか。
トンネル工事が始まった翌年、ツェラー氏は肺炎でこの世を去ってしまいました。残念ながら完成を見ることができなかったのです。しかし、工事は意志を継ぐ人たちにより続行され、着々と開通区間を伸ばしていきます。ストライキと財政難により2年間の工事中断がありつつも、1912年2月にトンネルが開通しました。暗闇に光が差した瞬間はさぞ感動したことでしょう。開通させるときはいつもより多めのダイナマイトを炸裂させたため、爆音がトンネルの下にも響き渡ったそうです。
そして1912年8月1日、16年にわたる工事の末にヨーロッパ最高峰の鉄道駅となるユングフラウヨッホ駅が開業します。8月1日はスイスの建国記念日でもあるそうです。
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