「ホテルオークラ東京」を建て替えなくてはならない本当の理由:スピン経済の歩き方(4/4 ページ)
「ホテルオークラ東京」の本館が建て替えのために閉館した。海外メディアから「日本的モダニズム建築を守ろう」という動きがあったが、あっさりと工事に着手。その理由は……。
世界から笑われないように
ただ、不安も残る。
なぜか日本は「オリンピック」という国家的イベントを前にすると、途端に関係者が浮き足立って、「保身」やら「お手盛り」に走ってプロジェクトが破たんすることが多い。
簡単に言うと、「うひょー、待ちに待ってたオリンピックだ! この日のためにいろいろ関係各位に根回ししたんだからガッツリ稼ぐぞ!」という「供給者側」の思いが強すぎて、「利用者側」の感覚と乖離(かいり)したトンチンカンなことをやらかすのだ。
今回の建て替えもちょっとそんな臭いがしている。東京五輪へ向けて最大の「上客」であるはずの知日派の外国人から「日本の伝統とモダニズムが融合する建物だから保存して」という声があがっているにもかかわらず、「大丈夫、大丈夫、外国人はこういうのが好きなんでしょ」と高層タワーに変えてしまう。
オークラ側は、「建て替え後も日本の伝統美を継承する方針」だとして、設計チームには本館を設計した故・谷口吉郎氏の長男である谷口吉生氏を起用した。
息子さんも著名な建築家で、素晴らしいホテルができると思うが、それはあくまで今の時代の建築美であって、多くの外国人客を魅了した「オークラ東京の伝統美」ではない。一度壊してしまったら二度と再現できないのが「伝統」である。多くの外国人観光客が日本に求めるイメージを、自ら放棄したホテルがどう評価されるのか。
エンブレム問題、新国立競技場に続き、生まれ変わった「オークラ東京」までも世界から笑われないように祈りたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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