水害復旧に鉄道の出番なし? 利益優先が国土を衰弱させる:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
今月の台風18号による大雨は鉄道の被害も大きく、関東鉄道常総線の冠水など復旧の目処が立たない路線がいくつかある。そして各方面の復旧作業が進む中、大量のがれき処理問題が浮上した。東日本大震災のように、鉄道貨物によるがれき輸送は実施されないのか?
全国の線路はつながっているか
もし……という仮定の話ではあるけれど、関東鉄道とJR貨物が協働し、東京都など処理施設のある受け入れ先があれば、常総市ならびに周辺の水害廃棄物は速やかに片付く。それを後押しする法整備も整っている。
2015年3月14日に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び災害対策基本法の一部を改正する法律案」が閣議決定(関連リンク)され、6月9日に衆議院、6月11日に参議院で可決。7月17日に公布されている(関連リンク)。
この法律は、東日本大震災でがれき処理に難航した経緯を反省し、自治体の対応限度を超えた廃棄物処理を国が代行できるようにする。環境大臣の役割も明確化された。環境大臣が廃棄物処理の方針を定め、自治体や関係事業者の分担を指定できる(災害対策基本法改正)。また、自治体および関係事業者は、災害廃棄物の適正な処理が円滑かつ迅速に行われるよう(中略)連携し協力するよう努めなければならない(廃棄物の処理及び清掃に関する法律改正)。
つまり、環境大臣が方針として処理施設と輸送ルートを示した場合、関係者はできる限り協力しなくてはいけない。そのとき、鉄道側の設備が整っているか。これが最後のハードルになる。
関東鉄道とJR水戸線の線路はつながっている。しかし、他の路線を見ると、同じ駅に乗り入れながら、線路がつながっていない場所も多い。例を挙げると、JR常磐線とひたちなか海浜鉄道、JR東海道本線と大井川鐵道などだ。これらはかつて直通列車があったにもかかわらず、乗り入れが行われなくなると、維持費がかかるため接続線が撤去されてしまった。つながっていれば災害輸送だけではなく、直通列車の運行や譲渡車両の運搬にも使えた。
国鉄がJRに分割民営化され、ローカル線は第3セクターに転換されるなど、我が国の鉄道は経営的に分離されていった。その上に接続線まで物理的に切断する。それでは鉄道のネットワーク機能がなくなってしまう。
経営的視点では、使っていない設備に費用がかかるなら、それは撤去すべきだ。しかし、鉄道線路は、つながっていれば万が一のときに使える。それは災害時かもしれないし、有事かもしれない。道路、海路、航空路、そして鉄路。万が一のときに、あらゆる輸送手段の選択肢がある。それが災害に強い国土ではないか。鉄道に限った話ではないけれど、公共的な事業では、経営効率を求めすぎると国土が弱体化するかもしれない。
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