「日本の企業はおかしい。欧米の企業から見たら……」ベネッセ・原田氏の働き方(4/5 ページ)
ワークライフバランスの課題に関する議論は、さまざまな立場で行われている。しかし、日本人のワークライフバランスは改善されているのだろうか。ベネッセホールディングスの原田泳幸会長兼社長に、社員の働き方について聞いたところ……。
ワークライフバランスの改善が企業に与えるインパクト
ではワークライフバランスを改善して生産効率の高い組織を作ることによって、企業の経営にどのようなインパクトを与えるのだろうか。「とにかく社員には、『残業ゼロを目指すことは、単なるコスト削減ではない』と常々言うようにしている。限られた時間の中で仕事を終わらせる習慣をつけると、仕事のスピードと質が向上する。これが残業をゼロにする企業にとっての本来のメリットなのだ。もちろん、社員にとってはワークライフバランスが改善することで生活がもっと豊かになり、メンタル面でも良い影響があり仕事に臨むエネルギーも高まる。一方で経営者にとっては、仕事のスピードと質の向上が生まれることが一番のメリットだ」と原田氏は語る。
厳しい市場環境の中で競争に勝つためにはビジネスのスピードを上げ、そして市場に勝つためには高い付加価値を生み出す組織にしなければならない。残業を削減し、社員のワークライフバランスを改善することは、競争力のある組織を生み出すために不可欠なのである。
原田氏は、“仕事の質”についてこう付け加える。「価値を生み出すクリエイティブな仕事というのは、何時から何時までオフィスにいれば生まれるというものではない。日常的に普段ずっと頭の中で考えているものであり、例えば私にとっては、早朝ランニングするときが一番多く仕事のアイデアが生み出される一番クリエイティブな時間だ。つまり、ある時間の中で仕事をしているのではなく、その人にとっての一番クリエイティブな時間に価値が生み出されているのだ」
つまり、仕事の結果を生み出すために必要なアイデアや価値の創造は、オフィスにいる時間の長さとは比例せず、そしてオフィスという空間に縛られるものではないということだ。「もちろん、ビジネスは組織で動いているので自分勝手なことはせずに社内の連携はしっかりしなければならない。会社という空間はそのための場所だ。しかし、頭が働き本当にクリエイティブな仕事が生み出されるのは、時間や場所に依存するものではない」
原田氏自身、オフィスアワーは社内の情報共有やものごとの決定をするための時間であり、本当に価値を創造するために頭を働かせているのは、オフィスにいないプライベートな時間なのだという。「体を動かしたり、ぼーっとしたり、余暇に旅行に行ったりする時間が必要。そういったリフレッシュからエネルギーが生まれて新たな価値を創造する発想が生まれる。そういった時間がなければ、メンタル面で疲弊してしまい価値を生み出すことなどできないはずだ。ワークライフバランスが崩れて心が疲弊すると、冷静なものごと判断や頭の整理ができなくなってしまう。精神的なコントロールが利かなくなってきてしまうのだ」
こうしたメンタル面で疲弊してしまった社員が集まる組織が、どのような生産性を実現できるのかは、ここでいうまでもない。ワークライフバランスの崩れ=メンタル面での不安定さは、企業経営にも大きな悪影響を与えてしまうのだ。「人間に平等に与えられた時間をどのように使うかが、人間の賢さだ。仕事のためだけに時間を使うのではなく、自分自身の人生に投資するために時間を使うことが“賢さ”だ」
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