「ベーコンやソーセージでがんになる」研究の伏線は20年前の「ホットドッグ戦争」:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
世界中のソーセージやベーコン愛好家たちの間に衝撃が走った。国際がん研究機関が、加工肉の摂取によってタバコやアスベストと同じレベルの発がん性があると公表したのだ。しかし、この問題の背景には、さまざまな思惑がからんでいて……。
加工肉業界側の「反撃」に注目
では、ワインバーガー博士らはなぜそんなことをしたのか。
米国人なので、サンマの食べ方を知らないということもあったかもしれないが、タイミング的なことを考えると「わざと」である可能性が高い。当時は「ホットドッグ戦争」に代表されるよう、世界中の医療関係者がどうにかして「亜硝酸塩=犯人」の証拠をつかもうと心血を注いでいたが、なかなか証拠がなかった。
なければつくればいい、と思う者がいてもおかしくはない。事実としてそういう研究不正は山ほど行われている。亜硝酸塩をクロにするには、分かりやすく「がん」を発生させることだ。そこで「サンマ」に白羽の矢がたった可能性はなかったのか。先ほども申し上げたように、野菜と魚を組み合わせると発がん性物質ができるというのは1970年代からまことしやかにささやかれていた。その仮説を塩漬けサンマで実証したのではなかったのか。
福島第一原発事故後、メディアから「御用学者」なんて叩かれたある被曝医療の権威にインタビューをさせてもらったことがある。チェルノブイリの臨床研究されたえらい方ということで、「放射性物質が体内に入ると、どのようなメカニズムでがんが発生するのでしょう」なんて思いっきり素朴な質問をしてみたら、その権威と呼ばれる先生は笑ってこう答えた。
「それが分かったらノーベル賞ですよ。メカニズムが分からないから統計で証明するしかないんですよ」
IARCも「分からない」としたように、加工肉と「発がん性物質」の因果関係も明らかにできたらノーベル賞だろう。だからこそ疫学データが重要になるわけだが、ここにはわれわれ一般人がはかりしれぬ「闇」があるのも事実だ。製薬会社が仕掛けた有名大学病院の研究不正事件や、続発した論文不正事件などを例に出すまでもなく、望む結論を導き出すためデータに細工をする研究者が少なからず存在している。北米食肉協会が主張する「インチキ疑惑」も完全には否定できない。
とはいえ、今回の研究結果がインパクトを与えたのは事実だ。20年前の「ホットドッグ戦争」から地道にエビデンスを積み上げてきた研究者側が、WHOのお墨付きを得て優勢なのは間違いないだろう。
果たして、ソーセージやベーコンも「たばこ」のような道をたどるのか。加工肉業界側の「反撃」に注目したい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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