日本企業にも普及するのか? タレントマネジメントの今(4/5 ページ)
近年「タレントマネジメント」というシステムが注目を集めている。海外のグローバル企業を中心に広まっているが、日本企業の普及は遅い。その理由について、リクルートワークス研究所の石原氏に聞いたところ……。
――人材を最速で成長させるという点も重要なキーワードだと思いますが、日本企業には実践できるのでしょうか。
石原: タレントマネジメントにおいてもうひとつ重要なのは、「その人にとって耐えられる最速のスピードで成長させる」ということです。優秀な人材を成長させるためには、その人の採用・能力がどの程度までその企業やビジネスで成長するのかということについて常にチャレンジグな状況に置いておかなければなりません。海外の企業は、「そうでなければ、その人材は『つまらない』といって会社を辞めてしまう」と思っているのです。
タレントマネジメントにとって、日本企業にありがちな「ポストに就くためには順番があるから、あと3年待ってほしい」「お前が優秀なのは分かっている。しかし、お前が部長になるためにはあと6年必要だ」などという話は通用しません。こうした年功序列による“順番待ち”の文化を、優秀な人材は全く喜びません。これが、日本企業が優秀な人材を獲得できない理由でもあるのです。育成はしてくれるが、活躍できるポストに就けるのに何年かかるのか分からない。海外の企業では3年でマネージャーになっているのに、自分は15年経っても同じポジションのまま。これでは優秀な人材は会社を辞めていってしまいます。
タレントマネジメントを実践している企業では、優秀な人材はもっとチャレンジしたいと思っているし、企業も社員にどんどんチャレンジさせたほうが、企業が成長すると思っています。「優秀なのは分かるけど、待ってて」などというのは、企業にとって能力の無駄遣いになってしまうのです。優秀な人の能力が最大限活きる場所を早く見つけて、早くチャンスを与えなければと考えることが、タレントマネジメントでは重要なのです。これを日本企業の多くはできていません。むしろ、優秀な部下を脅威に感じて出る杭を打ちたくなったり、そもそも杭が出ないようにポストに応じて年齢が決まっていたりするような人材マネジメントの仕組みになっていたりします。こうした思想があるうちは、本当のタレントマネジメントを実践することは難しいと言わざるを得ません。
「人材は財産だ」という言葉は、世界中の企業が言っていることです。そこで本当に重要なのは、その人材が持つ能力を最大限引き出して使いきること。そうでなければ、優秀な人材がいても企業は成長することができないのです。しかし、日本の企業は「チームだから」「和を大切にするから」と言って個人の能力が突き抜けるのを非常に嫌がります。個人がその能力でどんどん突き抜けて出世していくとチーム力が下がるとさえ思っている。ただ、タレントマネジメントを実践している企業も、「チーム力が大事だ」「リーダーの役目はチームの総力を最大化させることだ」と言っています。個人の能力を伸ばすことと、チーム力が落ちることは、実はまったく相関性がないことなのです。
全世界共通の人材データベースも、人事評価制度も当然必要です。しかし、それは必要条件であり十分条件ではありません。これらのシステムを導入したからといってタレントマネジメントを実践しているとは言えないのです。空いたポジションがあったときに、人材データベースを活用しながら「誰を登用すれば、その人にとって大きな成長に繋がるか」を考えるのがタレントマネジメントなのです。
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