「中年フリーターが増えると日本は危ない」は本当か:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
メディアが「中年フリーター」が増えていることに警鐘を鳴らしている。2000年代に入ってから増え始め、2015年には273万人に達しているそうだ。しかし、筆者の窪田氏は「中年フリーター」という言葉から、スピンコントロールの要素を強く感じるという。その理由は……。
「危機」を煽るだけのメディア
こういう現実を踏まえると、「正社員を目指す35〜54歳」というのは「社会保障費を食いつぶす人々」ではなく、「貴重な即戦力」に見えてこないか。
労働人口が急速に減少している一方で、訪日観光客が右肩上がりの日本で、「宿泊業、飲食サービス業」の「人手不足」はいずれ深刻な問題となる。語学対応ができる外国人留学生のアルバイトや、外国人労働者に頼ればいいと思うかもしれないが、「移民」を認めぬ日本では限界があるし、他国の観光業でも必ずしも語学が堪能な人だけが働いているわけではない。「おもてなし」という観点からも、やはり日本の従事者が増えていかなければいけない。
以上のことを踏まえると、非正規ながら労働者としてキャリアを積んできた「中年フリーター」は、これからの日本の観光業には必要不可欠な存在だという結論が導き出されるのだ。
―――なんてことを言ってみたものの、お気付きのようにこれだって数字を使った「印象操作」に過ぎない。なぜこんな話をしたのかというと、「35〜54歳の非正規労働者が273万人」という同じ事実でも、ちょっと視点を変えるだけで「生活保護予備軍」にも見えるし、「貴重な労働力」にも見えるということを申し上げたかったのだ。
個人的には、そろそろ「中年フリーター」をポジティブにとらえるような報道を見てみたい。現実逃避をしたいというわけではなく、これだけいろんなメディアがあるのだからいろいろな「視点」があることを知りたいからだ。
非正規雇用が増えて「ヤバイよ、ヤバイよ」というのは正直、耳タコだし、過去の例からも、この手の恐怖訴求型の報道が必ずしも建設的な議論へ結びつかないという問題もある。
「危機」を煽(あお)るだけがメディアの役割ではない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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