なぜクリスマスに「苺と生クリームのケーキ」を食べるようになったのか:スピン経済の歩き方(1/4 ページ)
クリスマスに「苺と生クリームのケーキ」を食べるようになったのは、不二家の販売戦略があったからだと言われているが、本当にそうなのか。筆者の窪田氏が歴史をひも解いていくと、実は……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
先日、某情報番組で「クリスマスに苺と生クリームがのっかったデコレーションケーキを食するようになった、というのは不二家の販売戦略だった」なんてトリビアが紹介されていた。
スタジオでは「へえ」なんて感じで驚いていたが、菓子業界的にはかなりよく知られた話で、バレンタインデーとホワイトデーにチョコやらマシュマロを贈るという習慣というのも、実は不二家が考案したプロモーション。冬から春にかけての日本人の糖分摂取に、この菓子メーカーが果たした役割は大きい。
ただ、クリスマスケーキに限って言えば、「販売戦略」というのはやや語弊があると思っている。なにかしらの明確なビジョンをもって仕掛けられたというより、「苺と生クリームがのっかったデコレーションケーキ」という販売スタイルに至るまではかなり苦労というか、紆余曲折をして辿(たど)り着いているからだ。
クリスマスにケーキを食べる習慣が広まったのは、終戦からようやく徐々に世の中が落ち着き、乳製品や砂糖の価格統制が解かれた1950年ごろからだと言われる。進駐軍の影響で、クリスマス文化が浸透したことに加えて、「ギブミーチョコレート」ではないが、日本人が甘いモノに飢えていた時代だった。
そんなムードを敏感に察知した不二家は1952年、クリスマスセールを開始。洋菓子店の軒先などでサンタクロース姿の店員がケーキを売りさばいたのである。
が、ここで売られていたのは「苺と生クリームがのっかったデコレーションケーキ」ではない。バタークリームのケーキだった。
なぜかというと、当時はケーキといえば、常温でも日持ちするバタークリームを使うのがお約束だったからだ。
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