三陸縦貫鉄道が終了へ……BRT自身の観光開発に期待:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
東日本大震災で被災した三陸沿岸の大船渡線、気仙沼線について、大船渡市長がBRTの本復旧を了承した。沿線市町村がBRT受け入れ容認という空気感の中で、大船渡市の踏み込んだ判断が決定打となる。両路線の鉄道復活は消えた。鉄道のない町という選択、厳しい未来への挑戦が始まる。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
沿線市町、BRT本格復旧で足並みそろう
2015年12月18日、岩手県の戸田公明市長が東京・新宿のJR東日本本社を訪れた。東日本大震災で不通となっている大船渡線について、BRT(バス高速輸送システム)による本復旧の受け入れを伝えた。大船渡線の大船渡市内区間は、線路がすべてBRT専用道化された。大船渡市は大船渡駅周辺の復興計画を進めている。公共交通問題を早期決着し、まちづくりに注力したい考えだ。
大船渡線は東北新幹線停車駅の一ノ関駅から太平洋沿岸の気仙沼市を経由し、太平洋沿岸を北上して盛駅に至る。このうち気仙沼駅〜盛駅間が津波被害を受けて不通となった。気仙沼駅から南の太平洋岸は気仙沼線が通じており、こちらも沿岸部分を含む柳津駅〜気仙沼駅間が不通となっている。合わせて、柳津駅〜盛駅間の長い不通区間について、JR東日本がBRTによる仮復旧で開通させていた。
不通区間の北側、盛駅以北は鉄道による復旧が進んでいる。盛駅〜釜石駅間は三陸鉄道南リアス線。釜石駅〜宮古駅間はJR東日本の山田線の沿岸区間で、ここはJR東日本が復旧させた後に三陸鉄道に移管される予定だ。宮古駅〜久慈駅までは三陸鉄道北リアス線、NHKのドラマ「あまちゃん」で登場した北三陸鉄道のモデルになった路線だ。
これら太平洋沿岸の鉄道路線をまとめて、石巻駅〜八戸駅間を「三陸縦貫鉄道」と呼んだ(関連記事)。1896年(明治29年)のチリ地震影響による大津波で被災し孤立した地域を結ぶ路線だ。全通まで悲願90年。しかし、2011年のJR東日本大震災で被災分断。大船渡市のBRT受け入れ決定で鉄道復旧の望みは消え、1984年から31年間続いた「三陸縦断鉄道ルート」は消滅する。
不通区間のほかの沿線市町はどうか。実は、ほかの自治体もBRT容認の意向だ。BRTの本復旧は2015年夏ごろから方向性が定まりつつあった。いずれほかの市町も正式にBRT本復旧を正式表明するだろう。今後はJR東日本に対し、BRTのサービス拡充や首都圏からの観光流入への協力を引き出す交渉に入る。
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