フェイスブックがVRに約2000億円を投資する本当の理由:新連載・西田宗千佳のニュース深堀り(3/3 ページ)
本格的に盛り上がり始めたバーチャルリアリティ(VR)市場。なぜいま、多くの企業は、投資家はVRに注目するのか。VRがもたらす本当のビジネス価値について読み解く。
2016年は「スマホVR」がVR市場をけん引する
FacebookがOculusに多額の投資をしたのも、こうした経緯に基づく。Facebookはコミュニケーションの会社だ。Webやモバイルアプリを超えるコミュニケーションを生み出すことは、この先の成長にとって大きな意味を持つ。
もちろん、そこまではまだまだかなりの技術開発が必要だ。HMDをかぶる、という行為も日常的に行うには大変だし、映像のクオリティももっと上げる必要がある。低品質なVRは酔いを誘発するので仕事には使えないし、顔や手の位置の認識が悪いと「VRの中にいる」感情は生まれてこない。
しかし、「先行したものが全てを征する」という近年のテクノロジーの原則に則れば、ハードの準備が整うまで待つのではなく、今のうちから技術開発を進めておく必要がある。現在の各社の技術投資は、そのための準備なのである。逆にいえば、何を作ればいいかはまだ明確ではなく、各社試行錯誤中である。そうした混沌の中だからこそ、良いものを作れば「一発逆転でイチ抜け」もありうる。
一方で、2016年にVRが注目されるのには、別の理由もある。それは、ハイエンドスマートフォンの行き詰まりだ。
スマートフォンが日常化して、そろそろ9年が経過しようとしている。スマートフォン単体でのスペック競争は一段落しつつある。スマートフォンの買い換えサイクルは長くなり、特にハイエンド機種の売り上げは落ちる傾向にある。
そこで注目されるのがVRだ。スマートフォンをディスプレイ兼センサー兼演算デバイスとして使えば、スマートフォンはVR用HMDになる。PCやゲーム機に比べ性能は劣り、VR空間の描写性能では一歩も二歩も譲るものの、VRを体験するために必要なコストは小さくなり、邪魔なケーブルやコントローラーもなくなる。何より、新しい技術開発領域は小さく、比較的短期間で製品化できる。VRの欠点は「面倒くささ」と「コスト」だ。その解決策として、スマートフォンを使った技術を本命視する関係者も少なくない。
一方、スマートフォンVRの最大の懸念点は、品質の低い製品とコンテンツがあふれて、VRそのものの可能性をしぼませることだ。簡単に作れることと「良いものができる」ことはイコールではない。先行しているサムスン電子は、OculusとともにGear VRを開発したが、そこでは、各種ソフトウェアの徹底したチューニングを行っているという。そうでないと、表示や動きへの追従に関して高い品質が保てず、VRとしてのクオリティも落ちてしまうからだ。
スマホ市場には、「拡張現実(AR)」という未来ある技術を流行りで消費してしまった「悪例」がある。スマホ市場の状況に流されず、いかに良いものを作れるか。そして、それをどうやって周知するか。ある意味、いきなり今年が正念場でもある。
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