安売りをしない「大人ランドセル」が、海外セレブを虜にする理由:スピン経済の歩き方(5/7 ページ)
海外で「大人用のランドセル」が注目されていることをご存じだろうか。ハリウッド女優が肩にかけて歩く姿が話題になり、人気に火がついた……という報道もあるが、本当にそうなのか。調べていくと、ある日本メーカーの存在が大きいことが分かった。
大峽製鞄は決してセールをしない
そこで気になるのは、大峽製鞄の「ブランディング」だ。世界のものづくりが集結し、革製品の本場であるイタリアで、ここまで注目を集めることができた秘けつについて、大峽専務はどう考えているのだろう。
「ターゲットを絞って、その人たちへの周知を徹底するためにあらゆる施策をとった。そういう点では、展示会が重要なファクターだったのは間違いありませんが、絶対に値段を下げないということもよかった」
大峽製鞄のブースを訪れるバイヤーたちはその高い品質やデザインに舌をまくが、もうひとつ驚くのは、「価格の高さ」だ。日本国内でも高級鞄であるところへ当時は円高がすすんでいたため、スーパーブランドに匹敵する価格帯になる。当然、ディスカウントを求める者もいるが、大峽専務は決して応じなかったという。
これは戦略というよりもブランドとしてのポリシーによるところが大きい。国内でも大峽製鞄は決してセールをしないことで知られており、卸している百貨店で全館セールを催す際にも必ず「セール除外品」となっている。東日本大震災の義援金を募るため、B品をチャリティセールで放出をした以外、後にも先にも「安売り」「値引き」をしたことがないのだ。
「セールというのは、その日に買うお客さまにとっては『得』ですが、前の日に買っているお客さまにとっては『損』でもあります。私たちはどなたがいつどこで買っても同じ価格で売れるモノをつくることを心がけているので、決して値引きをしないのです」
長年、愛用をしてくれている顧客のためにも「価値」を決して落とさない。確かに、これはブランディングの基本中といえいよう。
このような原理原則をしっかりと守ったことに加えて、「コミュニケーション」がうまくいったことも大きいのではないかと分析している。
「展示会や視察を通じて直接いろいろな国のバイヤーと情報交換ができました。ピッティウォモの出展を決めたのも彼らとの雑談。通訳は最低限のことは伝えますが、細かいところまで訳してくれません。ただ、そこにさまざまなヒントがあります。あと、ウチにはネイティブのスタッフもいるので、英文のプレスキットもかなりしっかりとしたモノをつくれます。メディア側からも取り上げやすかったのでしょう」(大峽専務)
関連記事
- 「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっている。売り上げが低迷している着物業界にとっては千載一遇かもしれないが、浮かれていられない「不都合な真実」があるのではないだろうか。それは……。 - 「日本は世界で人気」なのに、外国人観光客数ランキングが「26位」の理由
日本政府観光局によると、2014年に日本を訪れた外国人観光客は2年連続で過去最高を更新した。テレビを見ると「日本はスゴい」などと報じているが、国別ランキングをみると、日本は「26位」。なぜ外国人たちは日本に訪れないのか。その理由は……。 - 日本人のここがズレている! このままでは「観光立国」になれません
「訪日客が1300万人を突破」といったニュースを目にすると、「日本は観光立国になったなあ」と思われる人もいるだろうが、本当にそうなのか。文化財を修繕する小西美術工藝社のアトキンソン社長は「日本は『観光後進国』だ」と指摘する。その意味とは……。 - 「LEDよりも省エネで明るい」という次世代照明がなかなかブレイクしない理由
「CCFL(冷陰極管)」という照明をご存じだろうか。LED照明にも負けない省エネで低価格な製品だが、筆者の窪田氏は爆発的な普及は難しいという。なぜなら……。 - なぜ日本人はウイスキーを「水割り」で飲むのか?
ドラマ『マッサン』効果でウイスキー市場が盛り上がっている。各社の売り上げが伸びている一方で、気になることも。それは「水割り」。海外の人たちは「ストレート」や「ロック」で飲んでいるのに、なぜ日本人の多くは水割りを好むのか。その理由は……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.