なぜシリコンバレーの会社は快適なオフィスを作るのか?(2/2 ページ)
アップルやグーグルなど先進的なグローバル企業は、イノベーション創出につなげていくためのオフィス戦略を既に推進している。一方、日本企業では、まだまだこうした考え方が根付いていないのが実態であるという。
オフィスに「魂」を入れる
今、仕事をライフワークととらえ、仕事を通じて社会に貢献することに喜びを見い出すという傾向が若手人材を中心に強まっているように思われる。創造性豊かで能力の高い人材は、仕事と生活を切り分けるのではなく、融合一体化させる働き方を志向している。このような人材の確保・定着のためには、企業は創造的で自由なオフィス空間の整備と柔軟で裁量的なワークスタイルへの変革をセットで推進することが求められている。
米シリコンバレーでは、ハイテク企業の間で人材の引き抜き合戦が激しく繰り広げられており、企業は優秀な人材の確保・定着のために、必然的に働きやすいオフィス環境を整備・提供せざるを得ない。日本企業では、ワークスタイルの変革を含めたオフィス環境の整備の巧拙が人材確保に大きな影響を及ぼすとの危機感は、いまだ欠如しているのではないだろうか。
クリエイティブオフィスの基本的な設計コンセプト、すなわち「基本モデル」は、前述の「先進的なオフィスづくりの共通点」で具体的に述べたようなものにほぼ固まりつつあり、近未来や次世代のオフィスでも、この基本モデルは大きく変わらないだろう。この基本モデル自体の構築に各社が知恵を絞る時代は既に過ぎ、もはや、企業がクリエイティブオフィスの基本モデルを一刻も早く取り入れ、それに「魂を入れて」、構築・運用を始めるべき時代が到来しているといっても過言ではないと思われる。
筆者は、クリエイティブオフィスの基本モデルという器に注入すべき「魂」とは、前述のワークスタイルの変革とともに、何よりも重要なのが各社の経営理念であると考える。そして、「魂を入れる」とは、経営理念にふさわしいオフィスのロケーションの選択、インフィル(内装)を含めた不動産としての設えの構築、オフィスの愛称の選択などを指している。
経営トップは、クリエイティブオフィスを構築する段階で、オフィスに経営理念をしっかりと埋め込み、オフィスを経営理念や企業文化の象徴と位置付けて、全社的な拠りどころとなる求心力を持つ場に進化させていくことが求められる。そしてクリエイティブオフィスの運用段階では、ワークスタイルの変革をしっかりと遂行しなければならない。クリエイティブオフィスの基本モデルに魂を注入するということは、基本モデルを各社仕様にカスタマイズして実際に起動させるプロセスであると言える。
クリエイティブオフィスの考え方を取り入れ実践する日本企業は、いまだごく一部にとどまっている。創造性を育み本格的なイノベーションを生み出せるような組織風土を醸成し、そしてグローバル競争の土俵に立つためにも、一刻も早く、経営理念とワークスタイル変革という魂を注入した、創造的なオフィスづくりに着手することが求められる。
筆者プロフィール
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 上席研究員
研究・専門分野:企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR。
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