「人間ピラミッド」と「過労死」の問題点が、似ている理由:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
スポーツ庁が運動会の「組体操」で安全性が確保できないようなら、実施を見送るよう通達をした。「危険な人間タワーなんてやめるべき」「いやいや、教育上必要でしょ」といった声がある中、筆者の窪田氏はあることに注目している。それは……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
先週、スポーツ庁が運動会の「組体操」で安全性が確保できないようなら、実施を見送るよう通達をした。
この背景には近年、運動会の「人間ピラミッド」や「タワー」と呼ばれる組体操が高層化して、事故が多発していることがある。文科省の調査では、昨年だけでも8592件の事故が起きており、46年間では9人死亡、脊椎損傷などで麻痺(まひ)などの障害が残った子どもも92人にのぼっているという。
そう聞くと、運動会の花形競技がもうお目にかかれないのかと寂しい思いをされる方も多いかもしれないが、このような通達程度で、「人間ピラミッド」や「タワー」が全国の教育現場から消えることはない。多少下火になるかもしれないが、喉元すぎればなんとやらで復活をするはずだ。
なにを根拠にと思うかもしれないが、過去にもよく似たケースがあった。「マスゲーム」(多くの人が集まって体操などを行なう集団遊技)だ。
「え? あの北朝鮮の将軍様のためにやっているヤツ?」と驚く方もいるかもしれないが、実は我が国は、かの国に負けず劣らずの「マスゲーム大国」だったのだ。
今でこそ北朝鮮の全体主義を紹介するような文脈で登場するマスゲームだが、高度経済成長期の日本人もあの「集団美」が大好きで、あまりにものめり込んだため、教育現場では人間ピラミッド同様に規模の「巨大化」が進んでいた。1957年に静岡で行われた第12回国体では、6000人の児童がマスゲームを披露。1965年の岐阜国体でも、幼稚園児から婦人まで177団体1万3300人がマスゲームを行った。
その過熱ぶりに、役所から待ったがかかる。1990年4月、総務庁(当時)が「スポーツ振興対策に関する行政監察結果」を公表し、1960年から63年の国体の開催地となった3県で、マスゲームに参加した小中学校を調査したところ、授業時間中に演技練習が行われていたことで、年間の授業時数に届いていなかったことが明らかになったのだ。要は、授業よりもマスゲームの練習が優先されたのである。
関連記事
- ショーンKは本当に“いい人”なのか 嘘で成功した人たちの「共通点」
経歴詐称で世間を騒がしたショーンKを擁護する声があがっている。「いい人だ」「的確なコメントをしていた」といった意見が目立っているが、嘘で成功した人たちにはある“共通点”があるのでは。筆者の窪田氏によると……。 - 「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっている。売り上げが低迷している着物業界にとっては千載一遇かもしれないが、浮かれていられない「不都合な真実」があるのではないだろうか。それは……。 - 「日本は世界で人気」なのに、外国人観光客数ランキングが「26位」の理由
日本政府観光局によると、2014年に日本を訪れた外国人観光客は2年連続で過去最高を更新した。テレビを見ると「日本はスゴい」などと報じているが、国別ランキングをみると、日本は「26位」。なぜ外国人たちは日本に訪れないのか。その理由は……。 - 日本人のここがズレている! このままでは「観光立国」になれません
「訪日客が1300万人を突破」といったニュースを目にすると、「日本は観光立国になったなあ」と思われる人もいるだろうが、本当にそうなのか。文化財を修繕する小西美術工藝社のアトキンソン社長は「日本は『観光後進国』だ」と指摘する。その意味とは……。 - 「LEDよりも省エネで明るい」という次世代照明がなかなかブレイクしない理由
「CCFL(冷陰極管)」という照明をご存じだろうか。LED照明にも負けない省エネで低価格な製品だが、筆者の窪田氏は爆発的な普及は難しいという。なぜなら……。 - なぜ日本人はウイスキーを「水割り」で飲むのか?
ドラマ『マッサン』効果でウイスキー市場が盛り上がっている。各社の売り上げが伸びている一方で、気になることも。それは「水割り」。海外の人たちは「ストレート」や「ロック」で飲んでいるのに、なぜ日本人の多くは水割りを好むのか。その理由は……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.