「人間ピラミッド」と「過労死」の問題点が、似ている理由:スピン経済の歩き方(3/5 ページ)
スポーツ庁が運動会の「組体操」で安全性が確保できないようなら、実施を見送るよう通達をした。「危険な人間タワーなんてやめるべき」「いやいや、教育上必要でしょ」といった声がある中、筆者の窪田氏はあることに注目している。それは……。
「組織秩序」を叩きこむ効果
ご存じの方も多いだろうが、学校の運動会というのは、軍隊にルーツがある。
1874年、東京・築地の海軍兵学寮で英国人の提唱で開かれた「競闘遊戯会」が次第に広がったということもあり、騎馬戦、棒倒しなどなど軍事訓練の名残が色濃く残る。隊列を組んでザッザッと行進をしたり、「前へならえ!」「休め!」というかけ声で統率をされるのもそのためだ。
組体操も然りで、もともとは日々鍛錬した肉体の優越さを披露する目的はもちろん、「我が軍はしっかり統率がとれていますよ」というアピールに使われた。
だから、軍隊内の虐待やらにはよく人間ピラミッドが出てくる。例えば、2011年9月、陸上自衛隊第2師団で、陸士長11人が2等陸曹から暴行を受けていたのだが、ここでは6人に人間ピラミッドを組ませ、お尻にアイロンを当てるという「かわいがり」をしていた。
イラク戦争で米軍がアブグレイブ刑務所に収容されている捕虜を虐待していたときも、裸にひんむいて人間ピラミッドを組ませ、それを写メに収めている。
そう聞くと、「こいつは運動会の人間ピラミッドは児童虐待だとか批判したいんだな」と思われるかもしれないが、そういうつもりはない。客観的事実として、「人間ピラミッド」には「組織秩序」を教育する効果があり、それを日本の小中学校では応用しているということが言いたいのだ。
専門家もそうおっしゃっている。スポーツジャーナリストの増田明美さんは、2015年9月22日の『産経新聞』で、運動会における「団体競技」の必要性について、このように述べている。
全体主義も行き過ぎては問題だが、個人の権利が声高々に言われ過ぎても社会はまとまらない。個性を自ら押し殺して、社会全体のことを考えなければいけないときもあると思う。資源を持たない日本が戦後70年でここまで発展できたのは、モノ作りに打ち込み、ひたむきに働いてきた先輩たちのおかげである。個性を発揮しなくても、社会を支える重要な仕事を担ってきた。
つまり、「人間ピラミッド」というのは、自己中心的で世間知らずの子どもたちに「組織のために個性を押し殺す」ということを教育する機能があるのだ。
関連記事
- ショーンKは本当に“いい人”なのか 嘘で成功した人たちの「共通点」
経歴詐称で世間を騒がしたショーンKを擁護する声があがっている。「いい人だ」「的確なコメントをしていた」といった意見が目立っているが、嘘で成功した人たちにはある“共通点”があるのでは。筆者の窪田氏によると……。 - 「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっている。売り上げが低迷している着物業界にとっては千載一遇かもしれないが、浮かれていられない「不都合な真実」があるのではないだろうか。それは……。 - 「日本は世界で人気」なのに、外国人観光客数ランキングが「26位」の理由
日本政府観光局によると、2014年に日本を訪れた外国人観光客は2年連続で過去最高を更新した。テレビを見ると「日本はスゴい」などと報じているが、国別ランキングをみると、日本は「26位」。なぜ外国人たちは日本に訪れないのか。その理由は……。 - 日本人のここがズレている! このままでは「観光立国」になれません
「訪日客が1300万人を突破」といったニュースを目にすると、「日本は観光立国になったなあ」と思われる人もいるだろうが、本当にそうなのか。文化財を修繕する小西美術工藝社のアトキンソン社長は「日本は『観光後進国』だ」と指摘する。その意味とは……。 - 「LEDよりも省エネで明るい」という次世代照明がなかなかブレイクしない理由
「CCFL(冷陰極管)」という照明をご存じだろうか。LED照明にも負けない省エネで低価格な製品だが、筆者の窪田氏は爆発的な普及は難しいという。なぜなら……。 - なぜ日本人はウイスキーを「水割り」で飲むのか?
ドラマ『マッサン』効果でウイスキー市場が盛り上がっている。各社の売り上げが伸びている一方で、気になることも。それは「水割り」。海外の人たちは「ストレート」や「ロック」で飲んでいるのに、なぜ日本人の多くは水割りを好むのか。その理由は……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.