「人間ピラミッド」と「過労死」の問題点が、似ている理由:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
スポーツ庁が運動会の「組体操」で安全性が確保できないようなら、実施を見送るよう通達をした。「危険な人間タワーなんてやめるべき」「いやいや、教育上必要でしょ」といった声がある中、筆者の窪田氏はあることに注目している。それは……。
「人間ピラミッド」は必ず崩壊する
頭をふんずけられても、体が悲鳴をあげても辛いからといって持ち場を離れて逃げてしまうと、全体に迷惑がかかる。「みんなのため」に身を投げ出すことにこそ、人として生きる価値があるというわけだ。
個人的には、これはマスゲームや「人間ピラミッド」による「社会と集団への貢献」教育の賜物だと思っている。両者が連動しているとすれば、近年になって「人間ピラミッド」や「タワー」が高層化をしているというのも大いに頷(うなず)ける。
ご存じのように、「過労死」はもはや無視できないほど深刻化している。「ブラック企業」「ブラックバイト」など若者を使い捨てにし、命を奪うまで追い込むようなケースが次々と露呈している。現在、労災認定された過労死・過労自殺者は年200人超だが、表面化していないだけで実際の被害者はもっと多いといわれている。
こういう問題を、「社会と集団への貢献」をなによりも重視する民族はどう解決するのかというと、「じゃあ企業と働き方を根本から見直しましょう」という建設的な話にはなることはない。
では、どうするかというと「気合」だ。先の大戦末期のように「世の中ってのは厳しいのが当たり前だ、最近の若者は根性が足りん!」という精神論でなんとか乗り切ろうとするのだ。
もうお分かりだろう。「人間ピラミッド」が近年8段、9段と高層化しているというのは、猛烈なブラック社会を前に子どもたちが尻込みをして逃げ出さぬよう、いままで以上に「社会と集団の貢献」を厳しくしつけをしているともとれるのだ。
2030年、日本の人口は1000万人減少する。若者ひとりにかかる「負担」はハンパではない。60年代マスゲームに熱中した65歳以上の高齢者が3割に到達するので、「最近の若者は社会全体のことを考えていない」「ワシらと違って根性が足りない」という声が社会を覆い尽くしているというのは容易に想像できる。
近い将来、「人間ピラミッド」は10段、11 段があたりまえの時代がくるかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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