そもそも音楽は反体制なのかどうなのか問題(6/6 ページ)
「音楽に政治を持ち込むな」「そもそも音楽は反体制だ」──最近、音楽をめぐってこんな議論が交わされた。作家の堀田純司さんは、「音楽と反体制」を戦後史からひもとき、現在の世代との認識のズレを指摘する一方、コンテンツに「反体制」の兆しが現れつつあるのを見ている。
再び「反体制」の兆し
アメリカの大統領選挙では、ドナルド・トランプ候補の躍進が報じられましたが、民主党のほうでも、バーニー・サンダース候補が善戦しました。トランプ候補は45歳以上の白人、サンダース候補は若い層と主力支持層は異なりますが、両者ともに、既存のシステムを否定していることでは共通します。
イギリスは国民投票で、欧州連合(EU)からの離脱を決めましたが、離脱派の特徴はセレブ、すなわち「インサイダーがいないこと」でした。残留派がデーヴィッド・キャメロン首相を始め、企業の大物や、人気俳優のベネディクト・カンバーバッチなど「ビッグ」がいっぱいいたのに対して、離脱派で大物というと、前ロンドン市長のボリス・ジョンソンぐらい。しかも彼も、不倫事件により保守党の主流をはずされた、いわば異端者です。
若者の75%は残留を望み、「老害が決めた」と言われるEU離脱ですが、私にはロックの故郷・イギリスに、「セレブが握る今のシステムをぶっ壊せ」という心情もあったのではないかと思われてなりません。
こうした流れは、早晩、日本にも訪れる。その兆しとして、フジロックの巻き起こした論議はとても意義があったのではないでしょうか。恐らく、この先さらに「反体制」はコンテンツの主題として浮上していくのではないかと思います。
個人的な感想で言うと、もはや伝説になってしまったものは立派で、かっこよく見える。まさに「伝説的に」語られます。しかしリアルタイムの当時は、たまらなく青臭く見えたりもしたのではないでしょうか。どうもそうした気がします。
堀田純司 作家。1969年大阪生まれ。主な著書に「オッサンフォー」「僕とツンデレとハイデガー」(講談社)、「メジャーを生みだす マーケティングを越えるクリエーター」(KADOKAWA)などがある。「ガンダムUC証言集」(KADOKAWA)では編著も手がけた。日本漫画家協会会員。
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