どこが違うのか クルマと鉄道の「自動運転」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)
自動車の自動運転技術が進化している。先日の自動運転車の死亡事故は残念だけど、技術だけではなく、法整備や倫理観へ議論を進めるきっかけとなった。ところで、鉄道の自動運転を振り返ると、半世紀以上の歴史があるにもかかわらず関連法では「特例扱い」のままだ。鉄道の自動運転は、長年にわたって築かれた安全技術の上に成立しているからだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
古い話だけど、1981年8月に放送されたTVドラマ『東芝日曜劇場 - お父さんの地下鉄』で、俳優の川谷拓三さんが福岡市営地下鉄の運転士を演じた。運転台に並んだ2つのボタンを押すだけで電車は走り出し、次の駅で自動的に停止する。当時、私は中学生だった。物語は覚えていないけれど、この仕組みには驚いて、自動運転の場面はいまだに覚えている。
自動車の自動運転が話題になっている。一方、鉄道の自動運転は、試験段階を含めると50年以上の歴史があり、無人運転まで実用化されている。東京では「ゆりかもめ」、近畿では神戸新交通などの新交通システムが無人運転を実施中だ。仙台市営地下鉄、東京メトロ丸ノ内線など、地下鉄路線も自動運転が行われている。
ただし無人ではなく、前述の福岡市営地下鉄と同様に、運転士または車掌がボタンを押して発車のきっかけを与えている。私がドラマで驚いた1981年の2月には、神戸で新交通システムのポートアイランド線が開通した。こちらは完全自動運転で運転士は乗らない。日本初の無人運転だ。恐らく世界初だった。
だから「クルマより進化していた」と言うつもりはない。鉄道の場合はクルマのようなかじ取りは不要だし、道路のように歩行者や自転車も混じる混合交通ではないから統制をとりやすい。しかも自動運転以前に、さまざまな安全装置があって、その延長で実用化したに過ぎない。無人運転はあまりにも完成されて、列車らしくないとさえ思う。
ゆりかもめなどの新交通システムに乗ってみると分かるけれど、エレベーターが横方向に長距離で動くような感覚だ。重量が規定値を超えるとドアが閉まらないという仕組みもエレベーターに似ている。そう言えば、エレベーターもかつては運転士が乗っていたという。
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