それでも「カップヌードル謎肉祭」販売休止を「品薄商法」だと疑ってしまう理由:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
日清食品の「カップヌードル謎肉祭」が販売休止に追い込まれた。ネット上では、多くの人が「品薄商法では?」と疑いをかけているが、その一方で否定する声もある。今回の騒動を「見通しが甘かったのね」と素直に受け取っていいのだろうか。筆者の窪田氏は……。
購買欲を刺激するために、数を絞る
日清が5月に発表した決算説明会資料によると、「100年ブランドカンパニーに向けた挑戦」として、「既存のブランド価値の極大化」を目指すとしている。では、具体的にどうするのかというと、45周年を迎えた「カップヌードル」、40周年を迎えた「どん兵衛」と「焼そばU.F.O.」などの「Anniversary Yearの活用」を挙げているのだ。
もしも自分が会社から「カップヌードル45周年という節目の年にブランドの価値をあげてくれ」と言われたらどうするか。まず思いつくのは「話題性が高く今しか買えない」という45周年を記念した限定商品だ。確実にファンが欲しがるものを世に出しながらも、さらなる購買欲を刺激するため、数を絞る。
「品薄商法」は日本の食品業界では「リスクが高すぎてありえない」というのが常識だが、ブランドを生み出す人たちの間では、確実に効果を生み出し、価値を高める方法として、「王道の戦い方」として常識となっている。
例えば、スイスの高級腕時計オーデマピゲやスウォッチグループを経て、LVMH(エルヴェエムアッシュ モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループの世界的高級腕時計ウブロ社のCEOに就任した、ジャン・クロード・ビバーさんは2009年の「日経フォーラム世界経営者会議」でさらっとこんなことをおっしゃっている。
『高級品市場では希少性も必要。"品切れ"の演出だ。ウブロは年間の販売数量を最初から決める。在庫があったとしても規定の数量より多く売ることはない』(日本経済新聞 2009年10月27日)
200円程度のカップラーメンが、高級ブランドの戦略を使うなんて、そんなバカな話があるものかと笑う人もいるかもしれないが、高級ブランドのような戦い方をしてはいけない、などという決まりはどこにもない。
個人的には、今の日清はそういう常識にとらわれない気がしている。だって、「いまだ、バカやろう!」といまも高らかに宣言しているではないか。
と、いろいろ言ってみたものの、「品薄商法」について日清は全面否定している。
「謎肉祭」の販売休止がカップヌードルブランドの価値を釣り上げたのは事実だが、これらは意図せず、転がり込んできた「幸運」というわけだ。そんなうまい話があるのかと個人的には思うが、実際にあるのだから世の中、捨てたもんじゃないという気もする。
「ブランドの極大化」を目指す日清が、次にどんな「バカ」を見せてくれるのか注目したい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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