700万円を遊興費に使った市議が、メディアに「老後の不安」を漏らした理由:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
富山市の議員が白紙の領収書を使って政務活動費を着服していた問題で、これはスゴいなあと思う報道があった。不正を行った人が赤裸々に語っているので、多くの人は「いいインタビューだ」と思われたかもしれないが、筆者の窪田氏は違う視点で見ている。それは……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
白紙の領収書を使って政務活動費をチョロマカしした富山市議会議員がついに9人まで現われた問題で、これはスゴいなあと脱帽をしてしまうような報道が、9月19日の『朝日新聞』(大阪版)の中にあった。
記事中では、今回の富山市議会横領ナインのおひとりで、約700万円を着服した自民会派前会長の中川勇さん(69)が、「税金食い」に走った経緯を以下のように語っている。
『中川氏によれば、政務活動費(旧政務調査費)の不正を始めたのは2011年。地方議会の議員年金がこの年に財政難で廃止され、「辞めて老後の生活をどうするか心配になった。このままじゃダメだと思った」。このとき当選5回。酒席など付き合いにかかる費用もかさんでいた。自宅を大規模改築したことに伴うローン返済も、月19万円と重くのしかかっていた』
悪事へ堕ちていく者の心情を赤裸々に語らせている、実にたいしたインタビュアーだと感じる方も多いかもしれないが、筆者が脱帽したのはそちらではなく、中川さんのほうなのだ。
ネットで「富山の恥」とまでコキおろされている悪徳政治家を持ち上げるなんてお前は正気か、というお叱りの声が聞こえてきそうだが、この人のやったことを擁護(ようご)する気などさらさらない。
ただ、悪事の懺悔(ざんげ)の中に、しれっと自分が伝えたいメッセージを紛れ込ませた結果、記事の論調を変えてしまうという老獪(ろうかい)さという点においては、「見事」としか言いようがないのだ。
実は中川さんはご自身で「飲むのが好きで、誘われたら断れない性格」と『朝日新聞』で語っているように、約700万円の使途は主に遊興費だ。『特定の店だけだと自身の評判に関わると考え、最低3、4軒は顔を出すようにした。帰宅は未明。一晩で何万円も消えていった』というから富山市民の血税はほとんど、夜のネオン街に消えたと思っていい。
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