シベリア鉄道の北海道上陸に立ちはだかる根本的な問題:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
日本のロシアに対する経済協力について、ロシア側がシベリア鉄道の北海道延伸を求めたという。JR北海道は鉄道事業を縮小し、ロシアは極東という辺境へ線路を延ばす。その背景を探ると、どうやら日本と世界は鉄道に対する認識そのものに違いがありそうだ。
北海道上陸はまさに“黒船”
日本の鉄道はどうだろうか。ほとんどの大都市は沿岸にあり、大量輸送は船でまかなえる。そうなると鉄道のメリットは「船より速く」とスピード重視に傾倒する。スピードの需要は貨物より旅客のほうが大きいから、鉄道は旅客列車を優先し、速度を重視する。速度を維持するために定時運行にこだわる。その究極の形が新幹線だ。東海道新幹線の誕生に欧米が驚いた理由は、「鉄道に物量ではなく速度を求める」という発想そのものが斬新だったからではないか。
国際規格コンテナの2段積み。上段は40フィートタイプ、下段は20フィートタイプ。JR貨物のコキ200形貨車はどちらのサイズにも対応する。ただし日本の鉄道はトンネルや架線があるため2段積みはできない(出典:flickr、Paul Sullivan)
しかし、欧米は新幹線によって高速鉄道の可能性に気付いた。大量輸送も重要だが速度も必要。速度を上げるために定時性が重要。世界の鉄道は新たな段階に入った。
日本はどうか。そもそも大量輸送という概念が欠落していた。国鉄型コンテナは小口輸送に根ざした12フィート形が普及して今に至る。これが大量輸送から乗り遅れる理由となった。ISOコンテナや国内10トントラック相当の31フィートコンテナの対応は始まったばかりだ。
ロシアの線路と接続すれば、日本の鉄道関係者は、大陸の鉄道が持つ大量輸送という役割を実感するだろう。ISOコンテナを標準とした施設の見直し、新幹線貨物輸送の実現、オフレールステーションの鉄道への復帰もあるかもしれない。鉄道貨物の重要性が認識されると、今まで旅客列車だけで赤字だった路線にも貨物列車が走り始める。そのときにようやく「ローカル線を残して良かった」「廃止して後悔した」という声が上がるはずだ。
日本国内では改軌も鉄道貨物モーダルシフトも進まないけれど、日本は外圧を受けた改革は得意だ。北からの「黒船」に飲み込まれないように、国は物流政策に確固たる信念とリーダーシップを発揮してほしい。
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