電通や東芝といった大企業が、「軍隊化」してしまうワケ:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
電通の女性新入社員が「過労自殺」したことを受け、「オレの時代はもっと大変だった。いまの若い者は我慢が足りない」と思った人もいるだろう。上の世代にとっては“常識”かもしれないが、なぜそのような考え方をしてしまうのか。
日本には「希望なき軍隊」が多すぎる
電通が広告主への虚偽報告や過大請求という不正が発覚したのは記憶に新しいが、長谷川教授が23年間人生を捧げた東芝も不正会計問題があった。この2つは、簡単に言ってしまうと、思うような「戦果」を得られなかったことをどうにか取り繕おうという組織ぐるみの「粉飾」である。
旧日本軍をモデルとした日本の大企業に、このような不正が増えているというのは、「敗戦」が色濃くなってきたからではないのか。
先ほど述べた石川上等兵が陸軍にいた1933年は、まだ軍隊には「希望」があった。国際連盟は脱退したものの、満州国も建国されて関東軍もイケイケで、明るい未来を夢想できた。しかし、戦局が悪化して徐々に「希望」が失われていくと、セミの真似をやらされたり、自殺者が出たりと「新兵いじめ」が陰湿になっていった。
長谷川教授が新入社員だった1980年は、辛い長時間労働を乗り越えて会社に貢献をすれば、明るい未来が保証された。有能な人は、長谷川教授のようにヘッドハンティングもされた。そこには1930年代の日本軍のように「希望」があった。
しかし、今の日本企業はどうなのか。電通や東芝というそこに在籍するだけで「希望」を抱くことができた組織が、相次いで「戦果」を偽ったことが意味することは大きい。
電通の女性社員は、亡くなるおよそ10日前、こんなつぶやきをした。
『死にたいと思いながらこんなにストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか』
今の日本には「希望なき軍隊」が多すぎる。彼女のような苦しみに直面した方は、一刻も早くその場から逃げ出してほしい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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