「一迅社の力を借りてオタクマーケットに参入したい」 講談社が一迅社子会社化 両社トップが語るその狙い
講談社が一迅社の全株式を取得し、完全子会社化することで合意した。両者トップが語る、子会社化の経緯と狙いとは?
「一迅社の力を借りてオタクマーケットに参入したい」「講談社とならいい補完関係に」──講談社が一迅社の全株式を取得し、完全子会社化することで合意した。コアなファン層をつかんでいる一迅社と、電子書籍や海外展開のノウハウも持つ講談社が手を組むことで、コミック分野で相乗効果を発揮する狙いだ。
10月14日、都内で開かれた共同記者会見には、講談社から野間省伸社長と森武文専務、一迅社から原田修会長と杉野庸介社長が出席。子会社化の経緯と今後の方針について語った。
コアなジャンルに強い一迅社
一迅社は、1992年に原田会長が設立した「スタジオディーエヌエー」と、エニックス(当時)で漫画誌編集長を務めていた杉野社長が設立した「一賽舎」が2005年に合併して誕生した。
『ヲタクに恋は難しい』『最遊記 RELOAD BLAST』『ゆるゆり』や、雑誌「月刊コミックゼロサム」「コミック百合姫」などコミック系に強く、女装ハウツー本『オンナノコになりたい!』や恋愛指南本『30歳の保健体育』など、独自の方向性に特化したコンテンツで知られる。
従業員数は95人(契約社員を含む)。2016年8月期(見込み)の売上高44億円4238万円に対し、営業利益1億8209万円、純利益8475万円を計上している。
子会社化は一迅社が打診
一迅社の原田会長によると、講談社による子会社化は一迅社側から申し出たという。
「一迅社は『企画力がある』『変な本を出している』と認識され、ある種の実績を作ってきた。しかしこれから先、さらに業績を伸ばすためには、電子書籍(デジタル出版)と海外展開に本格的に取り組まなければならない。一迅社の規模では難しいが、講談社とならいい補完関係になれるのではないかと考えた」と経緯を語る。
講談社との接点は、飲みの席や麻雀の席で生まれたのだという。出版社の今後や未来について原田会長が森専務と語り合ううちに、子会社化の話が本格的に進むようになった。
講談社の野間社長は、「一迅社が得意としているオタクマーケットは、講談社があまり強くない領域。今やニッチなものではなく、国内でも海外でも受け入れられる可能性がある。一迅社の力を借りて参入したい」と展望を描く。
講談社の持つ電子書籍や海外事業におけるノウハウやインフラ、事業における人的リソースや資金力などを共有し、それぞれの強みを生かして相乗効果を発揮することを期待しているという。
森専務によると、株式譲渡は11月中の予定。取得額は今後の事業価値も含めて精査し、これから決めていくという。
子会社化するものの、講談社子会社の星海社と同様、一迅社の経営は独立して行う。一迅社のレーベルは残り、「編集方針の独自性は保持される。刊行している雑誌の廃刊などの予定は現状ない」(一迅社の杉野社長)。「編集力は全く変わらない。今まで以上に、一迅社らしい輝きをコミック業界で放ってくれると思っている」(講談社の森専務)という。
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