世界に通じる観光列車へ! 「木次線ワイン&チーズトレイン」から始まる未来:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
JR西日本が三江線の廃止を決定した。「明日は我が身」と近隣の木次線沿線は危機感を抱く。木次線開業100周年実行委員会が行事を準備する一方、新たなプロジェクトが始まった。お客さんも、鉄道会社も、地域の人々も笑顔にする。「木次線があって良かった」と世界の人々に喜んでもらうため、新しい観光列車へ向けた取り組みだ。
木次線に2つ目の観光列車を
全国で観光列車が増えた。つまり、奥出雲おろち号のライバルが全国に誕生した。最近の流行は食事サービス付きの観光列車だ。これらの観光列車は運送業ではなく、リゾート・レジャー産業である。お客さんに満足してもらうために、特別な体験、特別な食事、特別な買い物を用意する。下世話を承知で言えば、運賃に付加価値を加えて単価を上げたい。その利益は、JR西日本と沿線で分かち合う。沿線で商売をする人も「木次線にかかわると得する」となれば良い。乗らない人にとっても木次線は気になる存在になる。これが大事。ローカル線問題の最大の敵は、周囲からの無関心だ。
奥出雲おろち号は良い列車だ。乗車券と指定券で乗れて、美しい奥出雲の風景を楽しめる。各駅に出雲蕎麦や牛肉のお弁当、焼き鳥、プリンや大福など、おいしいものがたくさんある。豪華な観光列車が増えていく中で、ファミリー層や若いグループが手軽に楽しめる列車は大切だ。これは続けたほうがいい。
しかし、観光列車ブームを観察すると、時間と予算にゆとりのある世代が観光列車を楽しんでいる。木次線にもワンランク上の列車旅を楽しみたい人に向けた新しい観光列車が必要ではないか。
では、それをいつ始めるか。奥出雲おろち号が引退し、交代した新しい列車では遅い。不利な点が2つある。1つは「終わった」というイメージがついてしまう。もう1つは新しい列車の知名度をゼロから上げていく必要がある。これでは継続性がない。奥出雲おろち号が走っている間に、2つ目の観光列車を走らせる。そうすれば、いつか奥出雲おろち号が引退しても、新しい観光列車が観光客を引き継いでくれる。
車両はどうするか。観光列車はおカネをかけなくても作れる。普段使っている車両に市販のテーブルを固定した列車もある。食事付き観光列車の元祖、明知鉄道の寒天列車など事例は多い。新しいダイヤを設定しなくても、既存の普通列車にテーブル付き貸し切り車両を連結すれば運行できる。成功したら改造車両を投入し、大成功したら専用車両を新造する。まずは小さく始めて、しかし目標は大きく持ちたい。
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