JR九州が株式上場まで赤字路線を維持した理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
10月25日、JR九州は東証1部上場を果たした。同日前後、報道各社がJR北海道の路線廃止検討を報じている。このように対照的で皮肉な現実について、多くのメディアがさまざまな観点から論考するだろう。しかし過去を掘り返しても仕方ない。悔恨よりも未来だ。
JR北海道は縮小して鉄道の価値を上げるべき
JR九州の業績とは対照的に、JR北海道は危機的な状況にある。
何度も書いているけれども、温暖な九州と厳寒の北海道では経営環境が違うし、沿線人口や事業エリアの広さも違う。だから単純に比較してはいけない。鉄道に対する価値観も大きく異なっている。JR北海道は、というより、多くの鉄道会社は鉄道路線に対し「黒字か赤字か」を最も重く見ている。しかし、JR九州は鉄道を「企業の信頼の源泉」と考えた。それが多角経営へ踏み出せるか否かの分かれ目になった。
JR東日本もJR東海も、鉄道会社としての誇りと責任を下地として、多角経営に乗り出し、成功している。JR西日本の場合は大きな事故でつまづき、鉄道への信頼を取り戻すところからのスタートになった。JR四国はようやくマンション事業に着手し、JR九州の考え方に気付いた。
JR北海道はどうだろう。保線や車両整備の不備による事故が続き、鉄道運行の信頼を低下させた。安全への投資を推進するため、ローカル線の減便や路線廃止に着手する。JR九州とは真逆な施策が続いている。ただし、今のJR北海道にとって、この判断は間違ってはいない。
JR九州のように、もっと早くから「鉄道運行を継続する価値」に気付き、「鉄道事業の信用を御旗に多角経営を推進する」戦略をとれば、他部門からの利益で鉄道の安全維持の費用を稼げた。そう指摘する論考も続出するだろう。しかし、これを今さら指摘しても仕方ない。私たちは過去には戻れない。
では、JR北海道が取るべき道は何か。鉄道ファンとしては書きたくないけれど、運行を維持できない路線はバッサリと切り捨てるべきだ。運行できないための損失は、経費負担の赤字だけではないからだ。「運行の継続」に鉄道会社の価値と信用が生まれる。運行を継続できない鉄道会社は、不動産も流通も飲食も、何をやっても信頼されない。信用されない企業は緩やかに死ぬ。
そうなると、自信を持って運行を継続できる路線だけ残し、しっかりと運行を継続し、企業として信頼を回復した上で、多角経営に舵を切っていく。これをJR北海道が自力で再生する方法として考えてみてはどうか。イメージチェンジとして、会社名も「JR札幌」とか「JR道央」にするといい。名前が農協に似てるかどうかは別問題として。
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