「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
ロードスターRFの試乗を終えて戻ると、マツダの広報スタッフが「良いクルマでしょ?」と自信あり気に話しかけてきた。そんな新たなモデルを12月末に発売する。ロードスターとしてRFは異端と言えるだろう。
あらたな付加価値を得たRF
ではマツダは一体何を目指してRFを作ったのか? ロードスターのエンジニアリングにはすべて理由がある。例えば、エンジン1つを取ってもそうだ。従来モデルの1.5リッターのエンジンは、デミオ用のユニットだが、それをポンと載せたわけではない。はじめに「躍度(やくど)」の徹底研究があった。躍度とは加速度の上昇率、つまり加加速度のことである。
開発陣は、車両重量1トンのクルマを必要なシチュエーションで、必要なだけ加速させるために、各回転数でどれだけのトルクが必要かをプロットして、最初にトルクカーブを描いた。それを実現するために必要な改良をエンジンに加えることで、気持ち良い躍度を実現していったのだ。そのために鍛造のフルカウンタークランクを用い、吸排気を新設計した。つまり、NDにとってのベストとなる動力源としてエンジン「SKYACTIV-G 1.5」は採用されている。
だから北米の販社から「1.5なんていらない。2.0だけ寄越せ」と言われたとき、マツダは怒った。「1.5を売らないと言うならロードスターは出さない」。世界で最も台数が売れるマーケットに対してである。それだけマツダは1.5に自信と執着があった。ただし、エンジニアによくよく聞いてみると、2.0を否定しているわけではないのだ。「バリエーションとしてはありだ」と彼らは言う。ただ、基本が1.5であることは譲れないのだ。
幌モデルの最軽量グレードであるSは990キロ。RFは1100キロである。普通に考えると、RFのエンジンが2.0に改められたのは重量増加対策である。それはある一面で真実かもしれないが、実は乗ってみるとちょっと違った。
Sはアクセルを深く踏み込んでエンジンを回して楽しむクルマ。対して、RFはその余裕のある低速トルクの粘りで、静かに走ることができる。首都高速道路の渋滞は2速固定でほとんど済ませられた。もちろんそこから踏めば、スポーツカーの名に恥じない加速をする。低速の余裕あるトルクがクルマの振る舞いに新しい付加価値を加えているのだ。
心配したハンドリングは多少マイルドになっているが良好だ。直接比較をすれば差はあるが、別にレースをやるわけではない。穏やかになったとはいえ、凡百のスポーティカーとはレベルが違う。考えてみれば重量はNCロードスターの最軽量モデルとほぼ同一。RFは現行スポーツカーの中で最軽量グループに入る一台なのだ。
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