ヤマトがアジアで拡大! 成功の要因は?:日本流サービスを海外でも
ヤマト運輸がアジアで好調だ。荷物の取扱数を順調に伸ばし、アジアの営業所は既に100を超えている。現地にも競合企業が多数存在する中で、なぜ急拡大できたのか。
ヤマト運輸がアジアで好調だ――。同社が本格的にアジアへ進出したのは2010年。現在、台湾、上海、シンガポール、香港、マレーシアの5カ国(地域)で展開している。荷物の取扱数を順調に伸ばし、アジアの営業所が100を超えるなど拡大しており、来年1月からはタイでも宅配事業をスタートさせる予定だ。
現地にも競合企業が多数存在する中で、なぜ同社は営業所、荷物取扱数を右肩上がりに伸ばせているのか。ITmedia ビジネスオンライン編集部が主催するセミナーで、ヤマト運輸・国際戦略室の小坂隆弘課長がアジア進出における成功のポイントについて語った。
展開国にないサービス力で勝負
同社は2010年に上海、シンガポールへ、2011年にマレーシア、香港へ進出した(台湾は2000年に進出)。その背景について小坂氏は「中間層が増え、アジアの市場が盛り上がってきた。国内企業もどんどんアジアに進出しており、そのトレンドやニーズに応えていく必要があった」と説明する。
アジア進出の際、武器となったのが現地の宅配会社にはない“日本流サービス”だった。例えば、「配送・受け取り日時指定」「クール宅急便」「無料再配達」「夜間配達」といった同社が日本で提供してきたサービスだ。
進出した国・地域ではまだまだ普及していない、これらの日本流サービスが現地で高く評価されている。クール宅急便についても、「荷物1個から『クール宅急便』で送ることができるのは当社だけ。中国の食品通販会社のお客さんからは『中国に初めてやってきたクール宅急便を使うようになって売り上げが1.8倍になった』と好評を得ている」(小坂氏)という。
他にも、競合である現地の宅配会社と比べて荷物の紛失が圧倒的に少ないことや、宅配のスピード、接客・対応面でも好評価のポイントになっているそうだ。
「アジア各国はネット通販も盛り上がっている。しかし、展開した国・地域では当社のような“きめ細かな”サービスが一般的になっていなかった。この強みを武器に来年1月からはタイでも宅配事業をスタートする。タイはC2Cのビジネスも非常に盛んなので、さらなる拡大が期待できる」
「日本流サービス」を海外で提供するための人材育成
こうした日本流サービスを海外でも同様に提供するために徹底しているのが、現場の社員(ドライバー)の人材教育だ。小坂氏は「当社の最大の強みは、第一線で働いている現場の社員、ドライバー1人1人のサービス力にあり、それを最も重要視している」と強調する。
「スポーツで例えるなら、1球ごとに監督からサインが出る『野球』ではなく、現場の状況に応じてリアルタイムに選手が判断する『サッカー』。共通の価値観、理念だけ共有して、後は現場のドライバーに任せていく」
同社には、“全員経営”という社訓がある。現場の社員(ドライバー)の自主性を重視し、自ら顧客のニーズを収集して、ビジネスや業務改善につなげていくという考え方だ。
この社訓は英語、中国に翻訳し、現地(海外)のドライバーにも共有している。また、この理念を浸透させるために海外の社員向けに「感動体験ムービー」を作成し、視聴させているそうだ。社員が日々の業務の中で、お客さんに感謝されたこと、感動したことなどの体験談を動画でまとめたもので「割とアジア各国の社員には響いていて、仕事に対する誇りや、『自分も活躍しよう』と感じるようになった人が多い」という。
この他にも、日本から教育係を派遣し、接客・対応などの“おもてなし術”を直接現地のドライバーにマンツーマンで指導するほか、ドライバーからでもエリアマネジャーなどにキャリアアップできる制度を設けて、ドライバーのモチベーション向上にも取り組んでいる。
「人材教育を軸とした取り組みによって、海外でも日本流サービスを国内と同様に提供できる体制を整えており、それがアジアでの急拡大につながっている」と小坂氏は話す。
「『社内で英語を公用語にする』みたいな取り組みだけで、グローバルに通用する企業になれるわけじゃない。どう“自社の強みを生かす”かが大切。今後も、この強みを最大の武器として挑戦し、海外でも早く『宅急便』という言葉を浸透させたい」
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