“脳”で働き方を「見える化」 日立の挑戦:健康経営への一歩は?
「ストレスチェック」などの取り組みが始まったことで、知名度や関心が高まっている「健康経営」。しかし「どういうアプローチをしたらいいか分からない」と悩んでいる企業は多い。こうした中、「脳科学で見える化」をキーワードに健康経営支援ビジネスを進めるのが日立グループ3社だ。
日本の労働市場は今、大きな転換期を迎えている。国は働き方改革を掲げ、「労働生産性向上」「残業時間削減」「ワークライフバランス」といった言葉がよく聞こえるようになった。経済産業省は、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」を促進しようとしている。
2015年12月に「ストレスチェック」の義務化が始まったことで、健康経営の知名度や関心は高まっている。しかし「健康経営について、どういったアプローチをしたらいいか分からない」という企業は多い。15年発表の経済産業省の調査では、40%の経営者が「健康経営を進めるうえで、ノウハウや評価方法などの指標が不足している」と回答している。
こうした状況の中、健康経営支援ビジネスが生まれつつある。「脳科学で見える化」をキーワードにテクノロジーで解決策を提示するのが、日立製作所グループ会社の日立ハイテクノロジーズ、日立コンサルティング、日立キャピタル損害保険3社だ。
職場の活力を数値化する
日立グループの健康支援ビジネスは、さまざまな分野で強みがある企業を持つ大企業ならではのものだ。日立ハイテクノロジーズで開発した脳活動計測技術を用い、「職場の活力」をデータとして可視化。その数値を業務KPIと合わせて分析し、日立コンサルティングが活力が高くなるように職場の改善策を示す。一方で、日立キャピタル損害保険が、社員のメンタル問題が発生した時に備えて保険を提供する。
「日立の健康経営支援ソリューションは、心身ともに柔軟な働き方をしていく取り組みにアプローチする。まずオフィスを働きやすい場所にすることで、生産性が向上することを目指している」(日立コンサルティング岩谷直樹氏)
「職場の活力」というと、今までは感覚でしか捉えられなかった。それを数値化できるようにしたのが、光トポグラフィヘッドセットだ。「部屋Aと部屋B、どちらが仕事がはかどるのか?」という質問に対して、テクノロジーを活用すれば根拠のある回答ができる。
両方の部屋で作業をしたあと、ヘッドセットを装着して、空間記憶や言語記憶に関する5〜6分の簡単なゲームを行う。測っているのはゲームの正答率ではなく、操作中の脳(前頭前野)の血流の動きだ。活動が盛んであれば暖色に、低ければ寒色で表現される。前頭前野は、思考・創造・意思・計画などを司っている。また、抑うつを感じると、左前頭の活動が低下すると言われている。血流の動きから、脳の活動の様子を数値にして見える化できるのだ。「部屋Aで作業したあとは脳の動きが活発になるが、部屋Bではあまり変化がない」という結果が出れば、どちらが仕事に向いているかが判定できる。
青い部屋と黄色い部屋、どっちが作業に向いている?
例えば、単純な計算作業をするときに、青い壁に囲まれた部屋と、黄色い壁に囲まれた部屋では、どちらの方が効率が良くなるだろうか。「青の方が落ち着く色だから、青の部屋かな?」と言いたくなるが、実はヘッドセットで計測してみると黄色の方が脳活動が活発になり、作業効率が上昇。正答率も高いことが分かった。
もちろん、単に場所だけを判定するだけではなく、担当部門別に定点観測を行うことで、「活力が高い部署」や「活力が下がっている部署」を脳活動から見ることができる。さらに、パフォーマンスや有給取得数などの業務KPIと組み合わせることで、より細かな分析ができるという。
「ツールを導入しても活用が進んでいない企業は多い。それは、ツールの活用状況を見える化していないから。見える化して、PDCAを継続的に行うことで、ツールの活用が連鎖的に進んでいき、効果も大きくなっていく。最終的には、変化した働き方を業務KPIに取り入れて、経営課題につなげてほしい」(日立製作所板橋正文氏)
現状を分析する方法は、脳活動を計測できるヘッドセットなどの最先端テクノロジーだけではない。健康経営の一歩は、漠然と「ツールを入れてそのまま」「問題があるとなんとなく分かっているが先延ばし」の部分を見える化することにある。
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