トランプ時代の自動車摩擦:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
米国大統領に就任直後のトランプ氏が対日貿易についての批判発言をした。「米国の自動車メーカーは日本で販売が増加しないのに、日本の自動車メーカーは米国に何十万台も輸出している」と言うのだ。トランプ政権による新たな日米貿易摩擦について検証してみたい。
1月20日、ドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国の第45代大統領に就任した。世界一の経済大国が保護主義に舵を切るのではないかという予想に世界中が戦々恐々としている。
就任直前の1月5日には、メキシコへの工場建設を決めたトヨタに対し、米国の雇用を守るために、メキシコからの輸入に高額な関税をかけるとツイートした。しかし、トヨタのメキシコ工場はカナダ工場の代わりであって米国国内工場の生産には影響を与えない。ツイートそのものは明らかな誤認によるものだった。
世界の自動車マーケット
先進国の多くは周辺途上国との賃金格差をベースにした価格競争に疲弊しており、欧州では移民が、北米ではメキシコからの移民や輸入が、日本でも中国への製造業の移転が問題になってきた。1990年代に激化したそうしたグローバリズムの高まりが、先進国の中産階級を苦しめ、それが今、世界各地で火を吹き始めている。英国のEU離脱も、トランプ大統領の保護主義的発言も、日本の中韓との摩擦もそうした経済的背景が影響を与えている。
さて、そうした状況の下、就任直後のトランプ大統領はホワイトハウスでの財界首脳との会合で、対日貿易についての批判発言をした。「米国の自動車メーカーは日本で販売が増加しないのに、日本の自動車メーカーは米国に何十万台も輸出している」と言うのだ。
こういう発言から我々が思い出すのは、1980年代に日米間の大問題へと発展した日米自動車摩擦である。トランプ政権による新たな日米貿易摩擦が始まるのではないか? 今回はそれを検証してみたい。
まずは「地域別統計」をざっと眺めてほしい。これは地域グループの中で世界各国がどのくらい自動車を生産し、販売しているかを一覧にしたものだ。ソースは日本自動車工業会が発表している2015年の統計である。後に詳述するが、米国のようにピックアップトラックが事実上の乗用車として販売されている国の場合、乗用車の数値だけ見ても完全には把握できないが、そうかと言って商用車を加算すると本当の商用車が加わってしまい、これもうまくない。従ってピックアップトラックは含まれていないものとしてご了解いただきたい。
さて表の中で、その国の生産台数から販売台数を引いたものが、輸入超過となる。ないものは売れないので、それは輸入で調達していることになるからだ。
ざっくりと世界的潮流を見てみよう。旧西欧と旧東欧を見ると興味深いことが分かる。フランス、イタリア、英国など欧州を代表する先進国が軒並み輸入超過となっている。旧西欧で輸出超過なのはドイツとスペインで、特にドイツは圧倒的だ。
では、西欧諸国はどこからクルマを買っているのだろうか。それは旧東欧だ。こちらは例外なく輸出超過。1990年のベルリンの壁崩壊から始まったボーダレスの流れは、西欧の製造業の空洞化を招き、製造業の移転先である東欧の経済成長につながった。そこでさらなる発展を狙ってEUの発足ということになるのだが、必ずしも良い話で終わらない。
相対的に没落した西欧諸国で購買力が落ちれば、輸出で成立している東欧諸国の経済発展が停滞する。自国のマーケットが生産力と釣り合っていないので、内需に切り替えて国内消費でカバーすることができない。その結果、失業者があふれ、それらの人々が移民となって、生活を維持するために社会制度の充実した旧西欧に流出する。社会制度にただ乗りされては困る旧西欧では移民排斥運動が起きる。
一方、その地勢的メリットを生かし、東側への進出を有利に進めたドイツは低コストの東欧圏で生産したクルマを世界に輸出する。東欧の輸出超過のすべてがフォルクスワーゲンというわけではないが、大きな比率を占めている。さらに、東欧で得た豊富な資金源を活用して国内生産の合理化を進め、国内生産も増やしている。「インダストリー 4.0」はその代表的なものだ。結果的に見れば、EUというシステムが圧倒的にドイツに利するものになっており、そこからEUの不協和音が広がっているわけだ。
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