事実上の廃線復活 可部線延伸から学ぶこと:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)
新幹線開業などの大きな目玉がないせいか、今週末のJRグループダイヤ改正は大きく報じられない。しかし、鉄道ファンや交通問題に関心のある人には注目の案件がある。広島県の可部線が延伸する。たった1.6キロメートルとはいえ、事実上の廃線復活だ。JR発足30周年の年に、JRとしては初の事例ができた。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
月曜日の朝のテレビニュースに“今週の主な動き”を紹介するコーナーがある。しかし今週2月27日の朝、3月4日の欄に“ダイヤ改正”という見出しがなかった。さびしかった。
さかのぼれば、2016年は北海道新幹線が開業した。2015年は北陸新幹線が金沢へ延伸開業し、寝台特急北斗星の定期運行が終わり、トワイライトエクスプレスが廃止された。2014年は秋田新幹線がすべてE6系になり、北陸新幹線(長野新幹線)にE7系が登場。寝台特急あけぼのの定期運行が終わった。2013年は東京メトロ副都心線を介した東急と西武、東武の直通運転が始まった。最後は東京ローカルの話題かもしれないけれども、ニュースでは注目の動きとして取り上げられた。
これ以上さかのぼってはキリがないけれど、確かに、今までのダイヤ改正に比べれば今年は地味だ。それでも注目すべき案件はある。本連載の新春特別編でも紹介したように、山陽新幹線が新しい自動列車制御装置となり、所要時間が最大7分短縮される。広島県で可部線の廃止区間が一部復活する。JR東日本とJR九州が蓄電池電車を本格稼働させる。
今回はこの中で、可部線の廃線復活、延伸開業を掘り下げたい。過去の路線廃止の失敗を受け止め、新路線建設という新たな案件として取り組んだ。その姿勢は、鉄道以外のビジネスのヒントにもなりそうだ。過去を肯定し、新たな未来へ挑戦するという意味で。
可部線の末端区間が廃止された理由
JR西日本の可部線は広島県広島市の中央を南北に結ぶ路線だ。起点は山陽本線の横川駅。現在の終点は可部駅。単線ながら全線が電化されている。横川駅は広島駅から2つ目で、列車はすべて広島駅を発着する。広島市中心部と郊外の住宅地を結ぶ、通勤通学路線である。
しかし、現在の区間になる前、2003年11月までは、可部駅から約46キロメートルも先の三段峡駅まで通じていた。しかも計画はこれで終わりではなかった。三段峡駅から先、中国山地を貫いて、山陰本線の浜田駅に達する路線だ。広島と浜田を結ぶ“陰陽連絡線”の役割が期待されていた。経由地の名をとって今福線と呼ばれ、建設工事も行われていた。しかし、1980年の国鉄再建法によって建設中の国鉄路線のほとんどが工事凍結。今福線も例外ではなかった。
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