国鉄を知らない人へ贈る「分割民営化」の話:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/7 ページ)
4月1日にJRグループは発足して30周年を迎えた。すなわち、国鉄分割民営化から30年だ。この節目に分割民営化の功罪を問う論調も多い。しかし、どの議論も国鉄の存在を承前として始まっている。今回はあえて若い人向けに国鉄と分割民営化をまとめてみた。
なぜ国鉄の赤字が増えたか
1964年度と1965年度の赤字は、それまで蓄積していた利益で補てんできた。その繰越金も底をつき、1966年度は完全な赤字決算となった。補てんの方法は主に、財政投融資からの借り入れと政府保証鉄道債券だった。これらは返済時に利子の支払いが必要だ。後年、その利子が増大して、ますます長期債務を増やす原因となった。
1966年度以降は単年度赤字が長らく続き、借金は増える一方だ。晩年の1984年から、経営努力や運賃値上げによって旅客部門が単年度黒字になった。しかし、このとき既に金利負担が増大し、赤字体質から脱却できなかった。
国鉄の赤字転落の原因は、自動車や航空機との競争だけではなかった。民業圧迫を避けるため、副業が制限されていた。私鉄のように不動産や流通部門の黒字で鉄道を支えるという仕組みはなかったのだ。
設備投資費用もかさんだ。都市部に人口が増加し、通勤利用者のために設備の更新や増強が必要になった。政府の決定によって、地方の鉄道路線も国鉄が建設し、開業した。地方路線は赤字になりそうな路線がほとんどだった。また、政府の雇用対策の受け皿として、戦後の引き揚げ者などを大量に雇った。給料は年功序列で増え続け、定年退職すれば退職金、さらには年金の負担があった。準公務員だから、一定以上の役職には恩給も追加負担する必要もあった。
国鉄が赤字を解消できなかった理由はもう1つある。晩年になるまで運賃の値上げができなかった。国鉄は特殊法人という性質のため、運賃値上げ、路線の建設、廃止、役員の人事に至るまで、すべて政府が法案を作成し、国会が議決する必要がある。その国会が運賃値上げを認めなかった。国鉄運賃に限らず、公共料金の値上げのほとんどが認められなかった。景気対策のためだった。
国鉄にとっては、政府が値上げを認めなかったから赤字になったと言いたい。しかし政府にも国民をインフレから守る使命がある。政府の判断が間違っていたとは言い難い。
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