歴代ロードスターに乗って考える30年の変化:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
3月上旬のある日、マツダの初代ロードスターの開発に携わった旧知の人と再会した際、彼は厳しい表情で、最新世代のNDロードスターを指して「あれはダメだ」とハッキリ言った。果たしてそうなのだろうか……?
1989年から2015年までの4世代
NAロードスターに乗るのは久しぶりだ。広報車は初代ロードスターの主査であった平井敏彦氏の個人車両だったVスペシャル。ブリティッシュグリーンとタンの内装が懐かしい。細いウッドのナルディも手伝って、今見るとクラシックカーの赴きだ。当時、エンジンの吹け感の重さがロードスターの欠点として挙げられていたものだが、動弁系に可変仕掛けのない古典的なエンジンは、今のエンジンに比べてずっと軽やかに回る。
ボディ剛性は今の水準で見れば相当に緩いが、路面からの諸々をその緩いボディがうまくいなして不安感なく走る。走りの印象は線が細いが、芯に硬質なダイレクトさがあるせいで亡羊(ぼうよう)とはしていない。
少し気の毒なのはタイヤだ。185/60R14という当時としては標準的なサイズが、今ではもうマーケットにないに等しく、ブリヂストンのプレイズを履かされていた。このタイヤは特殊なタイヤで、ドライバーに情報を伝えない。同時にドライバーの微細な操作をキャンセルすることを目的に開発されている。平たく言ってしまえば、初心者の運転し易さのために微舵角操作を意図的に不感にしたタイヤで、操作を楽しむライトウエイトスポーツに最も向かないタイヤだ。しかしそれでもNAロードスターは運転して楽しかった。ゆっくり走っていても楽しい。シートは座面の前上がり角が足りないし、肩甲骨まわりのサイドサポートはほぼない。あっちにもこっちにも、いろいろと問題はあるのだが、圧倒的な楽しさがある。
2代目のNB型に乗り換えると、クルマとしての進歩に驚く。ボディはずっとしっかりしたし、ハンドルを切ったときに発生する横力はずっと大きく、少なくともタイヤがグリップしている範囲においてよく曲がる。エンジンも排気量が200cc増えたお陰で線の細さが影を潜めた。全体的に骨太かつ筋肉質になって、接地感が向上し、走りの質感は明確に良くなっている。単純な話、NAよりずっと速いペースで安心して走れる。シートの差はもう言うだけ野暮というくらいに違う。ヒット作のモデルチェンジだけに細心の注意を払ってすべてをバランス良く向上させていることがよく分かる。
厳しくなった衝突安全への対処のため、モデルチェンジが行われて1998年に登場したNBロードスター。北米の安全基準で採用できなくなったリトラクタブルヘッドランプに代わって、コンベンショナルな固定式ヘッドランプを採用した
しかし、1つだけ失っているものがあった。それはゆっくり走っても楽しいという美点だ。多くのクルマには固有のリズムのようなものがあって、それに合わせたペースで運転しないと楽しくない。スポーツカーを「速く走るクルマ」と定義するなら明らかな進歩だが、運転する楽しさについては「スピードを上げれば」という但し書きが付いてしまった。NAより速く、安心で安全なのは間違いないが、楽しく走っていると速度が上がってしまう。クルマが「もっと速く走れ」と催促する。
3代目のNC型はさらに違う。開発当時のマツダの厳しい財務状態から、RX-8とコンポーネンツの共用を義務付けられたNC型は、否応なく1つ分クラスが上がってしまった。何より乗った瞬間から紛うことなく現代のクルマだと感じる。ボディは盤石だし、シートの出来もさらに向上した。2リッターエンジンも相まって、走る、曲がる、止まるのパフォーマンスはNAを基準にとれば極めて高次元で、同じジャンルのクルマとして扱っていいものかどうか少々悩む。もはやスーパースポーツの一歩手前、分水嶺こそ踏み越えていないものの、紙一重である。次世代のND型が出た今でも、「速く走るクルマ」としては、間違いなく歴代最強の高性能ロードスターである。
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