歴代ロードスターに乗って考える30年の変化:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
3月上旬のある日、マツダの初代ロードスターの開発に携わった旧知の人と再会した際、彼は厳しい表情で、最新世代のNDロードスターを指して「あれはダメだ」とハッキリ言った。果たしてそうなのだろうか……?
軽快感と接地感
2008年7月、山本修弘主査は、ND型の開発を始めるにあたって、27人の開発スタッフを集めてさまざまなクルマの試乗会を行った。歴代ロードスター以外にも、世界各国のスポーツカーや乗用車を集めて、15台のクルマの「運転の楽しさ」を探った。そこで選ばれたのは、NAロードスター、ポルシェ・ケイマン、ルノー・キャトルの3台だった。
マツダのエンジニアが心から大切にして、マツダのシンボルとして育んで来た2代目以降のロードスターが、こと楽しさという面で「性能の悪い」NAに破れた。それを自ら確認する試乗会になったのだ。それはNCの延長線上にロードスターの未来はないことを意味する。NCを越える高性能スポーツがあっても良いが、それはロードスターが目指すものではない。何か別のクルマだ。
試乗会の結果を受けて開発テーマが絞られた。「感」を研究する。クルマを操る楽しみ、それは人が感じる「感」ではないかと山本主査は見定めた。そして無数に存在する「感」のうちで大切なものを「手の内/意のまま感」「軽快感」「解放感」の三本柱として選んだ。実は接地感も「感」のうちの1つだが、それは軽快感と対立する。常に盤石に路面をグリップし続ければ、軽快感は出てこない。
スポーツカーの開発において、先代モデル比で意図的に接地感を減らすという開発は恐らく前代未聞だろう。冒頭で述べた通り、スポーツカーの定義は人それぞれだ。だから「軽快感より接地感が大事だ」という人がいることは誰も否定できない。そういう人は今ならNC型が選べる。RX-8もそういうクルマだった。さらに速くなければダメだという人なら日産GT-Rがある。
冒頭の彼が言う「接地感が希薄だ」という言葉は何も間違っていないが、筆者はロードスターにとって「軽快感」と「接地感」のどちらが大事かと言えば「軽快感」だと思う。ただし、それは両者がトレードオフ関係にある今だからだ。もし「軽快感」を失わないまま「接地感」も向上できるとすれば、それはご同慶の至りである。次のロードスターが出るとすれば2020年代後半になるだろう。マツダの人たちは、次のロードスターでそれを新しい次元に引き上げることができるのだろうか?
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
関連記事
- 悪夢の「マツダ地獄」を止めた第6世代戦略
一度マツダ車を買うと、数年後に買い換えようとしたとき、下取り価格が安く、無理して高く下取りしてくれるマツダでしか買い換えられなくなる。その「マツダ地獄」をマツダ自身が今打ち壊そうとしているのだ。 - 「常識が通じない」マツダの世界戦略
「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。 - 「マツダ ロードスターRF」はロードスターなのか?
ロードスターRFの試乗を終えて戻ると、マツダの広報スタッフが「良いクルマでしょ?」と自信あり気に話しかけてきた。そんな新たなモデルを12月末に発売する。ロードスターとしてRFは異端と言えるだろう。 - 地味な技術で大化けしたCX-5
マツダはSUV「CX-5」をフルモデルチェンジした。「すわ第7世代の登場か!」と勢い込んだが、そうではないらしい。マツダの人はこれを6.5世代だと意味あり気に言うのだ……。 - マツダがロータリーにこだわり続ける理由 その歴史をひもとく
先日、マツダの三次テストコースが開業50周年を迎え、マツダファンたちによる感謝祭が現地で行われた。彼らを魅了するマツダ車の最大の特徴と言えば「ロータリーエンジン」だが、そこに秘められたエピソードは深い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.