「只見線」「南阿蘇鉄道」の復旧が遅れた“原因”は何か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
2011年の豪雨災害で不通となっているJR只見線について、JR東日本と福島県が鉄道を復旧して存続させることで合意した。同じころ、16年の熊本地震で被災した南阿蘇鉄道について、政府が復旧費の97.5%を支援する意向と報じられた。復旧決定まで、只見線は6年、南阿蘇鉄道は1年。鉄道復旧に時間がかかる理由は、政府に鉄道専門の財源がないからだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
6月18日、JR西日本の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」が最初のクルーズを無事終了した。翌19日、JR西日本社長の定例会見で、廉価な長距離列車の導入が発表された。これで、富裕層にも庶民にも新たな旅の機会が提案された。JR西日本は粋なことをする。今週は大手メディアでも話題になった。
その陰に隠れてしまったけれど、被災し長期間不通となっている路線について、重要な報道があった。福島県のJR只見線、熊本県の南阿蘇鉄道だ。只見線は2021年度の復旧目標を確定。南阿蘇鉄道は枠組みの決定が示され、22年度の復旧目標となった。どちらもようやく復旧の道筋ができた。
特に、只見線は6年越しの地元の悲願だった。諦めずに沿線自治体の足並みをそろえ、粘り強く交渉し続けた結果だ。南阿蘇鉄道は政府の観光立国政策に寄与する上に、全国から寄せられた支援も功を奏したことだろう。鉄道ファンとして本当にうれしい。
ところで、只見線が被災した2011年7月の新潟・福島豪雨について、道路については直ちに復旧工事に着手された。只見線沿線を含む会津地区では、1年後に道路と道路橋の88%で工事に着手、そのうち49%で工事が完了している。この数字は順調に上昇しており、15年12月に100%工事完了となった。被災から約4年半が経過し、河川、砂防、道路などの復旧案件のうち、道路が最も遅かった。
最も遅く復旧した道路より、鉄道の復旧は遅れた。この間、只見線についてはJR東日本などの調査が行われただけだ。現在まで着工に至っていない。地元自治体が復旧予算と復旧後の支援策をまとめ、JR東日本が運行再開に了承したばかりである。道路と鉄道。どちらも公共交通であり、必要な人がいる。需要の差はあるとはいえ、ライフラインだ。自治体が粘り強く交渉を維持しなければ、鉄道は廃止されるところだった。これほど差があっていいものか。
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