スイフトに追加された驚異のハイブリッド:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
わずか半年という期間でスズキは主力小型車であるスイフトの新モデルを追加した。これが飛躍的な向上を見せていることに驚きを隠せずにはいられない。
国産Bセグメントの白眉
もう1つ、わずか半年で乗り心地が大きく改善されていた。ダンパーの微速域の動きが明らかにスムーズになり、往年のフランス車のような穏やかで平穏な乗り心地になっていた。柔らかいにも関わらず、抑制がしっかり効いており、微舵角から大舵角まで非常に素直なハンドリングと乗り心地が高次元で両立されている。恐らくはCVTよりダイレクト感の高いAMTと、アクセル操作に対してトルクの出し入れのレスポンスの良いモーターのお陰で、タイヤの駆動力がドライバーの意思に忠実にコントロールできることがそういう結果を生んだと考えられる。
ベースとなったスイフトの欠点は、ペダルのオフセット、骨盤の前後ホールドが少し緩いシート(ただし左右方向の骨盤保持はかなり優秀)、下を切り落としたD型のハンドル(テコの長さが場所によって変わるのは理想的ではない)、視認性よりデザイン性を重視したメーターの4点だった。それらは元のままで直っていない。
ハイブリッドモデルのみの欠点と言えば、バッテリーの充電状況と負荷の様子で時折エンジンを止めてモーターのみの走行になったとき、エアコンが止まってモワッとすることがあった。エンジニアによれば「一応エバポレーターの温度を測ってできるだけエアコンが効かない状態は回避しているんですが……」とのこと。試乗日は強烈な暑さだったと言うことは一応添えておく。しかしスイフト・ハイブリッドを全体で見れば、それらの欠点を埋めて余りあるほどパワートレインとサスペンションの出来が素晴らしい。ペダルオフセットさえなんとかなればという気持ちは強いが、筆者は試乗の間中ニコニコしていた。
今、国産のBセグメントでスイフト・ハイブリッドとまともに戦えるのは恐らくデミオのガソリンモデルだけだろう。ペダルレイアウトではデミオの圧勝だが、乗り心地に関しては少しスポーティーに振ったデミオより、穏やかだがハンドリングを犠牲にしていないスイフトに軍配を上げたい。Bセグメントの購入を考えているならば、スイフト・ハイブリッドは要チェックである。
しかし、これだけの革命的な仕組みを持つモデルを「スイフト・ハイブリッド」という何の変哲も無い名前で売り出すしか方法はなかったのか。スズキはもう少し欲を持った方が良い。スゴいものはスゴそうな名前でないと分からない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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