世界初 マツダSKYACTIV-Xをドイツで試運転してきた:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
マツダが先月発表した次世代エンジン「SKYACTIV-X」。その能力を体感する機会に恵まれた。しかもマツダの社員以外で、世界で初めてSKYACTIV-Xのエンジンを始動する栄誉に預かったのだ。
スタートボタンを押すと、夢のエンジンは極めてあっけなく回り始めた。発売する1年半も前のプロトタイプユニットと聞いた時に予想される気難しさはまったくない。
燃料にガソリンを使いながらディーゼルエンジンと同等の超高圧縮比で自己着火させる革新的な燃焼システム「HCCI」は、従来のガソリンエンジンであれば、ノッキングに相当する領域をコントロールしながら使う。詳細は以前書いた記事を参照していただきたい。
まったく新しい燃焼を実現した130年ぶりの改革
この新しい燃焼システムのメリットは、大きく分けて2つある。
1つ目は超高圧縮比だ。圧縮比は高いほど燃焼圧力が上がり、熱効率が向上する。だから本来圧縮比を上げたいのだ。それを妨げてきたのが異常燃焼だ。圧縮を上げていくと、適正タイミングより早期に着火する「早期着火」が起きたり、制御を超えた高速燃焼の衝撃波によって、燃焼室内壁に沿って生成される温度の低い気体層(境界層)が破壊され、高温の燃焼ガスに金属が直に触れ、最悪の場合ピストンなどが融解して壊れる「デトネーション」が発生する。これらの厄介な異常燃焼が起きないのであれば、圧縮比を上げれば燃費と出力の両方が向上するのだ。
もう1つのメリットはリーンバーンだ。エンジンは運転状況によって負荷が変わる。高いギヤのまま上り坂を加速するような低回転高負荷運転の場合もあれば、平坦路を一定速度で巡航するような低回転低負荷運転の場面もある。負荷が小さい時は燃料を減らして希薄な混合気で走りたいが、従来のプラグ着火では「プラグの種火が徐々に燃え広がる」火炎伝播によって混合気が燃えていたため、一定以上に薄くすると途中で延焼が止まって排気ガスは汚くなるし、不完全燃焼の煤が燃焼室に溜まってエンジン不調をを引き起こす。気体の圧縮による温度上昇で、混合気をすべてほぼ同時に自己着火させるHCCIなら、薄くても着火する。当然低負荷域で燃料を節約でき、画期的な低燃費エンジンになるのである。
SKYACTIV-Xは130年に及ぶ内燃機関の歴史で、初めて実現したまったく新しい燃焼方式による画期的なエンジンである。ちなみにマツダによるプロトタイプユニットの暫定的なスペックは以下の通りである。
- 圧縮比: 16.0:1
- 排気量: 1997cc
- 最大トルク: 230Nm(目標値)
- 最大出力: 140kW/ 190PS(目標値)
- 燃料: ガソリン95RON
超高圧縮なので、当然燃焼圧のピークが高い。その仕組みを知っていれば、誰でも危惧するのはエンジンの音だ。ディーゼルのようにゴロゴロうるさいのではないか? そう考えながらエンジンスタートボタンを押した筆者に肩すかしを食わせるように、SKYACTIV-Xはごく普通に静かに回り始めた。
しかも筆者はたまたま試乗1組目に当たったので、マツダの社員以外で、世界で初めてSKYACTIV-Xのエンジンを始動する栄誉に預かった。こんなに普通に静かに始動できることをまだ世界の誰も知らないと思うと、いい歳をして子どものようにワクワクした。
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