ビジネス書が売れなくなった本当の理由:常見陽平のサラリーマン研究所(1/2 ページ)
ビジネス書が売れなくなった理由にはいくつかの通説がある。その中でも特に興味深いのが「既にノウハウが出尽くしたから」「キャリアアップという発想が時代遅れだから」の2つの通説である。
意識高い系ウォッチャーとしてたまらない本を発見した。『平成のビジネス書』(中公新書ラクレ)である。
この本では、著者の山田真哉氏が過去に執筆していたビジネス書の書評連載の内容をまとめた書評編と、書き下ろしの考察編に分けられている。書評編では、ホリエモンこと、堀江貴文氏がまだ若かったころの本など、懐かしい本が多数あった。
考察編では「近年、なぜビジネス書は売れなくなったのか」について論じており、これが面白かった。
2000年代は『金持ち父さん貧乏父さん』(筑摩書房)や『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)など多数の大ヒット作があり、ビジネス書・自己啓発書ブームだった。最近はそのようなヒット作を見かけないし、実際、日本出版販売(日販)の調査を見てみると、ビジネス書の売り上げは11年以降、右肩下がりとなっている。
売れなくなった理由にはいくつかの通説がある。その中でも特に興味深いのが「既にノウハウが出尽くしたから」「キャリアアップという発想が時代遅れだから」の2つの通説である。
うすうす気付いていたことだが……
「既にノウハウが出尽くしたから」という通説については、実はビジネス書ブームの際も多くの人がうすうす気付いていたことである。主張する人が変わるだけで、言っていることは同じなのだ。
しかも「自分の強みを最大限に生かせ」などという、誰も反対しないド正論が載っている。その強みに気付けないから本を読んでいるわけであり、会社では仕事を必ずしも選ぶことができるわけではないので、何の救いにもならなかったりするのだ。
「断る力」なんて言葉も流行ったが、庶民には断るほど仕事もなければ、勇気もないのである。「1日30分、何かを続けなさい」的なノウハウもあったが、続けるのはしんどい。
この程度の内容なら、わざわざお金を出して本を買わなくてもネットで読めばいいということになる。
もちろん、物書きとしては、本が売れなくなることは悲しい。しかし、ネットで自分にフィットする情報にアクセスできる時代は決して悪くはない。何かノウハウを身につけるのに、200ページも読まなくて済むからだ。
ちなみに、私が意識高い系の社員だったころ、たくさんのビジネス書を読んだがその内容のほとんどは覚えていない。唯一印象に残っている本は、冒頭で紹介した『夢をかなえるゾウ』だけだ。私はこの本とドラマ版を見て感動し、その翌日、当時勤めていた会社に「辞める」と伝えたのだった。
関連記事
- 「世の中全て分かっている系」が厄介な理由
「意識高い系」より面倒くさいのが「世の中全て分かっている系」の人である。自分の得意分野と、生きてきた時代を基準に全てを語ろうとするので非常に厄介なのだ。 - あなたの会社は若者から魅力的に見えていますか?
2018年度の新卒採用が既に盛り上がりを見せている。「新卒の採用なんて関係ねえよ」というサラリーマン諸君も多いことだろう。しかし、サラリーマンとしての保身のためにも、少なくとも自社の採用については関心を持つべきだ。 - ビジネス界は「あれはオレがやりました」で溢れている
雑誌のインタビューに出てくる「俺がやりました」的な奴は、疑ってかかったほうが良い。期待するほどそいつは仕事していない。実際は、みんながそれなりに仕事をしているのだ。 - BOOWY好きの上司と飲むときに気を付けたいこと
群馬県高崎駅に伝説のロックバンド「BOOWY」と書かれたポスターが現れ、盛り上がっている。サラリーマン的に問題なのは、今月の会社の飲みの席で、男性上司から高い可能性でこの話題が出ること、それにどう対応するかということではないだろうか。 - 「残業(長時間労働)は仕方ない」はもうやめよう
電通の新入社員が過労自殺するという事件が起こり、話題になっている。政府はいま「働き方改革」を進めて長時間労働の是正に取り組んでいるが、繰り返されてきたこの問題を本当に解決できるのだろうか。労働問題の専門家、常見陽平氏に話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.