第2世代SKYACTIVシャシープロトタイプに緊急試乗:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
2019年に登場予定のマツダの第2世代SKYACTIVシャシー。そのプロトタイプにドイツで緊急試乗した。その詳細をレポートする。
基本に立ち返りながら最新を使いこなす
さてそのためにどうするか? マツダは「路面からの力を骨盤へ伝達し、歩行時と同じ様に骨盤を規則的に連続的に滑らかに動かす」のだと言う。
そのためにクルマに求められることは3つある。
(1)バネ下からバネ上に伝える力の波形を滑らかにする
(2)力の方向をブレずに単純化
(3)4輪対角の剛性変動を抑える
これらを達成するために制御因子を特定した。シートとボディとシャシーの機能分担である。
シートは「ばね上と一体で動く」。その動きがズレてはいけない。だからシートの取り付け部、シートレール、シートフレームの剛性を向上させ、ガタをなくした。併せてシート座面の硬さは人体、特に筋肉の反発係数に合わせた。実際に座ると異様なむっちり感で、一瞬、米GMのコルベットのシートを思わせた。
ボディは、サスペンションからの入力を混濁させずにスッキリとシートまでに伝えるために3次元での剛性向上に努めた。そのために従来より多方向に環状構造を使って剛性を高めた。のみならず、接合面の必要な箇所に減衰効果のある接着材を用いることで、車内にノイズの共振が拡散することを防いでいるという。軟骨である。
もう1つ、今回マツダがサプライヤーに遠慮してあまり言及していないポイントにタイヤがある。マツダは少し前からエコタイヤに対して否定的なスタンスを取っている。もちろん現在、完全な非エコタイヤなど存在しないから、程度の問題ではある。なぜエコタイヤがダメかと言えば、エコタイヤがエコである技術の根幹が内部減衰の低減にあるからだ。
ゴムは屈曲されると内部で発熱してエネルギーを吸収する。それをどれだけ減らせるかがエコタイヤの技術だ。その結果、エコタイヤは路面のザラゴロ感を吸収してくれない。足の裏の皮下脂肪や土踏まずのアーチ機能を殺してギブスのように固めるのがエコタイヤの機能である。そんなタイヤでは理想に到達できないからマツダはタイヤメーカーに依頼して第2世代SKYACTIV専用のタイヤを作らせたのだ。
研究開発・MDI・コスト革新統括の藤原清志専務は「タイヤをつぶしてやらないとダメなんですよ」と言う。路面からの唯一の入力口であるタイヤが脚の機能と違えば、エミュレーションなどできるはずがない。皮下脂肪と同じようにトレッド(踏面)をつぶして変形させ、土踏まずのアーチ同様にサイドウォールにばねの働きをさせてこそ第2世代SKYACTIVシャシーは成立するのだ。
こういう相互に循環的に関連した問題の各部の最適値をどうやって決めていったのか? 要素数が多く循環的な機能の最適化は人力ではとてもできない。SKYACTIV-Xの燃焼シミュレーションを試作ベースの旧来のやり方でやったら2万年かかると言う。
サスペンションの解析でもコンピュータシミュレーションが決定的な役割を果たした。MBD(Model Based Development)である。今やF1ドライバーがシミュレーターで練習する時代。得意とするジャンルに限れば、コンピュータの能力はとてつもないことになっている。マツダは基本中の基本に戻って考える手法と、スーパーコンピュータによる最新シミュレーションを使いこなすことで、第2世代SKYACTIVシャシーを作り上げていったのだ。
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