インバウンドを盛り上げる「日本海縦断観光ルート」胎動:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
京都丹後鉄道を擁するWILLERと日本海沿岸の新潟市、敦賀市、舞鶴市、豊岡市は「日本海縦断観光ルート・プロジェクト」を発表した。豊かな観光資産を持つ地域が連携し、従来の拠点往復ではない「回遊の旅」を提案する。成功の条件は「移動手段の楽しさ」だ。交通事業者にとって大きなチャンスである。
きっかけは北前船
4市1社がまとまったきっかけは、4月に日本遺産に認定された北前船だ。「荒波を超えた男たちの夢が紡いだ異空間〜北前船寄港地・船主集落〜」というストーリーで、北海道函館市と松前町、青森県鰺ヶ沢町と深浦町、秋田県秋田市、山形県酒田市、新潟県新潟市と長岡市、石川県加賀市、福井県敦賀市と南越前町が取り組んだ。北前船は江戸時代に成立した海運交易の主要ルート。近畿地方で昆布だしの料理が発達した背景には北前船があった。北前船の日本遺産プロジェクトは酒田市が代表となった。
「日本海縦断観光ルート・プロジェクト」では、新潟市が連携の要になったようだ。新潟市と敦賀市は新日本海フェリーでつながり、北前船を連想させる。新潟市と豊岡市のつながりは鳥。新潟ではトキ、豊岡はコウノトリ。どちらも絶滅危惧種で、保護と繁殖に力を入れている。その豊岡は日本版DMO(観光地経営組織)の取り組みでWILLERと連携している。
WILLERは高速路線バスを全国展開するほか、グループ内に京都丹後鉄道(WILLER TRAINS)がある。京都丹後鉄道は豊岡と舞鶴を結ぶ。また、WILLERはレストランバス事業を展開しており、その最初のツアー開催地が新潟市だった。この縁が「日本海縦断観光ルート・プロジェクト」につながる。
交通に興味を待つ立場からすると「きっとこれもWILLERが旗振り役だったに違いない」と思ってしまうけれど、発表会の様子から察すると違うようだ。発端は新潟市と3市の間の「現在は北前船のような強いつながりがない。日本遺産をきっかけに、海路陸路を交えた回遊ルートを作ろう」という思いだった。WILLERの村瀬茂高社長も「一交通事業者として参加し、他の地域の交通事業者へ連携を呼び掛けていく」と語っていた。
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