蔵前に「ICカードで参拝」の納骨堂 最新ITで墓参り:需要高まる「墓テック」(1/2 ページ)
東京都内の“墓不足”の解消策として注目を浴びている「納骨堂」。東京・蔵前の歴史ある寺がICカードで墓参できる納骨堂「蔵前陵苑」の運営を始めた。「最新の墓参り」を体験してきた。
550年の歴史を持つ東京・蔵前の満照山眞敬寺(まんしょうざん しんきょうじ)が、新たな挑戦を始めた。ICカードで参拝ができる納骨堂「蔵前陵苑」(東京都台東区)の運営を開始する。「外墓地に入れない次善の策としての納骨堂」ではなく、「ライフスタイルに寄り添った最善の選択肢としての納骨堂」を目指すという。
最先端の墓参りを体験
都営大江戸線・蔵前駅を降りて5分ほど歩くと、蔵前陵苑の建物が見えてくる。東日本大震災で傾いた本堂を解体し、「光に出遇う(であう)寺」のコンセプトで約1年半かけて造り上げた7階建てのビルだ。一見すると納骨堂とは分からないような、街並みに溶け込むモダンな外観で、入り口はまるでホテルやセレモニーホールの雰囲気がある。
本堂、葬儀や法要に利用できるスペース、墓参室、ラウンジ、霊安室――と火葬場以外の必要な設備を全てそろえた。エレベーターやパウダールーム、更衣室、授乳室なども備え、車いすやベビーカーが通りやすいバリアフリー構造になっている。外光を取り入れ、錫(スズ)や銀の箔をふんだんに使った明るい印象の内装だ。
2フロアが墓参室。機械による自動搬送式参拝システムの室内墓(納骨堂)で、ICカードをスッとかざすと、1分ほどで銘板(厨子)が呼び出される。ドアが開くと「○○家」や家紋がしっかりと刻まれたお墓が姿を現す。横にあるディスプレイには名前、没年月日、写真などが表示される(動画の登録も可能)。
自動搬送式参拝システムは、納骨スペースに安置してある厨子を参拝ブースまで輸送するという仕組み。蔵前陵苑では、物流システムのトップメーカーであるダイフクのソリューションを使っているという。墓参とITという組み合わせには一瞬ギョッとするが、デザインがシックなため違和感は少ない。花や焼香は施設が用意しているため、墓参者は“手ぶら”でお参りすることができるのが便利だ。
フロアには仕切りで分けられた部屋が10ずつあり、建物全体で同時に最大で20組ほどが墓参できる。利用状況は入り口のディスプレイでそれぞれ確認できる仕組みだ。7000基ほどを収めることができる。価格はベーシックタイプが85万円、ハイグレードタイプが98万円(別途、年間護持会費として1万2000〜3000円を納める。1つにつき約8体まで収蔵可能)。宗派は自由で、永代供養も受け付けている。
販売を担当する武蔵野御廟取締役の横山洋樹さんは「販売目標は設定していない。できるだけ多くの方に見学をしてもらいたい。こだわりぬいたこの施設を見ていただければ、自然と購入する方が増えていくのではないか」と語る。
眞敬寺の釋朋宣住職の「閉ざされた空間ではなく、安らぎのある開かれた場所にしていきたい」という思いから、法要室や礼拝堂を活用し、婚活などのイベントも行っていくそうだ。
注目浴びる「新しい埋葬」
眞敬寺のような納骨堂が近年増加している。都内では宗教法人が運営する納骨堂が374施設あり、08年から15年の7年で約70施設ほど増えた。従来はロッカー式が一般的だったが、蔵前陵苑で採用された移動搬送式も普及してきている。埋葬方法に納骨堂を選択する割合は、14年時点で約15%まで上昇している(いいお墓.comの調査より)。
背景にあるのは、高齢化と都心への人口集中だ。
今後首都圏での死亡者の増加率は全国よりも上昇していくと予想されている。一方、地方では、人口減で墓を継ぐ人がいない「無縁墓」が増加している。熊本県人吉市では、市内の墓1万5000基のうち、4割以上の6000基超が無縁墓になっている。こうした中、地方の墓から都心の墓へと改葬を考える人も増えている。
都会では新規の墓の需要は増えていくとみられるが、墓所数は近年微減傾向にある。核家族化が進み「先祖代々の墓に入りたくない」というニーズも生まれる中で、場所の需要と供給には差が生まれつつあるという。
しかし墓所を増やそうにも、法規制や近隣住民からの反発などがあり、屋外墓地の新設にはさまざまな壁がある。そこで解決策として注目を浴びているのが納骨堂だ。限られたスペースで、より多くの需要を満たせる。また、墓参に面倒さを感じている層に向けてもアピールができる。今後、眞敬寺のような取り組みを行う寺などが増えそうだ。
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